21歳の藤井聡太七冠が唯一持っていなかったタイトル「王座戦」の五番勝負第4局で、永瀬拓矢王座に勝利。3勝1敗でタイトルを奪取し、これにより史上初の八冠全冠制覇を成し遂げたのです。
激闘の王座戦。最後の最後でミスをした永瀬王座の姿が……
この第4局は、藤井七冠の将棋を研究し綿密な準備を重ねた永瀬王座が勝利目前のところまでリードしていました。朝の9時に始まり、互いに5時間の持ち時間(自分の指す番で、使った時間が減っていきます)を使い切り、両者とも1手1分で指さなくてはいけなくなった21時少し前、永瀬王座にミスと言える手がでました。これで形勢は大逆転。
ABEMA将棋チャンネルなどの動画生中継では、このミスに気が付き、頭を抱え悔しさをにじませる永瀬王座の姿が。このチャンスを逃さない藤井七冠の勝ちとなりました。
勝っても将棋の内容に反省をする藤井八冠「さらに実力を」
史上初の快挙に沸き立つ報道陣とは対照的に、終局直後の藤井八冠に笑顔はなく「苦しい将棋だった」「もっと実力をつけなくてはいけない」と反省の言葉ばかりを口にしていました。これが藤井八冠の強さ。タイトルをたくさん獲ることよりも自分の実力を高めること、より良い、より面白い将棋を指すことが目標なので、八冠を達成しても緩むことがありません。
これに加え、伸びしろ豊富な21歳という若さ。これからさらに強くなっていくことが期待されます。
一般棋戦も総なめ! 空前絶後の「グランドスラム」を達成
藤井八冠は全タイトルを獲得したわけですが、将棋界にはこれ以外にも一般棋戦があります。タイトル戦と一般棋戦はしくみが違います。タイトル保持者に対し、約170人の現役棋士の中からトーナメント戦やリーグ戦を勝ち抜いた1人だけが挑戦者となり、保持者と挑戦者が7局または5局の番勝負を戦い、過半数(七番勝負なら4局)先に勝ったほうが、次期のタイトル保持者となるのがタイトル戦です。
対して、一般棋戦にはタイトル保持者はおらず、毎年優勝者が決まります。
実は藤井八冠、この一般棋戦4つ全て(四段中心の棋戦など出場できない棋戦を除く)にも、直近で優勝しているのです。八冠プラス優勝4つは、もちろん史上初のグランドスラムです。空前絶後と言ってもいいでしょう。
いつまで八冠独占は続くのか? 今後の注目ポイント
ここまで藤井八冠が強いと勝つのが当たり前と思うかもしれませんが、決してそんなことはありません。これからの注目ポイントを紹介します。・ポイント1
1つめは、今回タイトルを藤井八冠に奪われた永瀬前王座(九段)との戦いです。負けはしたものの、努力と準備を重ねた永瀬九段の戦いぶりは見事で、王座戦第3局、第4局と続けて藤井八冠をあと一歩のところまで追い詰めました。
王座戦終局から10日後の10月21日には、トップ棋士だけが出られる一般棋戦の「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦」の準決勝で、藤井八冠と永瀬九段が対決します。
・ポイント2
2つめは、この八冠をいつまで維持できるかということ。前回、全冠制覇を達成したのは、1996年の羽生善治七冠でした(当時のタイトルは全部で7つ)。羽生「七冠」でいた期間は約半年。
タイトル戦は時期は違っても、それぞれが毎年行われるので、七冠達成後も次々にタイトルを防衛するための対戦がやってきました。2つのタイトル戦で防衛に成功したものの、3つめの「棋聖戦」で年下の三浦弘行九段に奪取され、六冠になりました。
藤井八冠も同じように次々とタイトルを防衛するための戦いがやってきます。現在も同学年の伊藤匠七段との竜王戦が進行中。
藤井八冠に勝つべく、最大限の努力と準備をしてくるのは永瀬九段だけではありません。これからタイトルに挑戦する棋士はなんとか藤井八冠に勝ちたいと、とっておきの作戦をぶつけてくるでしょう。それに打ち勝つのは容易ではないはずです。
これまでタイトル戦で挑戦者の時は必ず奪取し、タイトル保持者のときは全て防衛してきた藤井八冠。タイトルを奪われる時はその「不敗記録」が途切れる時です。それがずっと後なのか、すぐに来るのかにも注目です。
※段位、タイトル数は2023年10月11日時点
この記事の執筆者:宮田 聖子
ライター。アマチュアの将棋大会の運営を15年続けつつ、文春オンラインとマイナビ出版・将棋情報局にプロ棋士のインタビューやアマチュア将棋の記事を執筆。