2002年生まれの2人が最高峰のタイトル戦で対決! 藤井聡太竜王に伊藤匠七段が挑む【第36期竜王戦】

10月6日に開幕する「竜王戦」は将棋界でもっとも格の高いタイトル。今年は藤井聡太竜王に伊藤匠七段が挑みます。タイトルを争う2人は2002年生まれの同学年(21歳と20歳)という点も注目されています。竜王戦のしくみや、見どころについてまとめました。(写真:毎日新聞社/アフロ)

2023年10月11日に行われるタイトル戦の「王座戦」第4局で、「史上初の八冠なるか」に大きな注目が集まっている藤井聡太七冠。

タイトルを7つ持っていて、どれも5局や7局を1~3週間おきに行い、決着がつくまでに1~3カ月ほどかかるというのが、現在の藤井七冠のスケジュール。そのためタイトル戦の同時進行も珍しくはなく、注目の「王座戦」の決着がつく前の10月6日に、将棋界でもっとも格の高いタイトルである「竜王戦」が開幕します。
同学年である伊藤匠七段の挑戦を受ける藤井聡太竜王(写真:毎日新聞社/アフロ)
同学年である伊藤匠七段の挑戦を受ける藤井聡太竜王(写真:毎日新聞社/アフロ)
こちらはタイトルを持つ藤井聡太竜王に対して、伊藤匠(たくみ)七段が挑戦する七番勝負です。ちなみにタイトル戦では、そのタイトルを持つ棋士の名前の後にタイトル名を付けて呼ばれるため、竜王戦では「藤井竜王」となります。

タイトルを争う2人は同学年で、21歳と20歳という若さ。2人の関係性と、竜王戦のしくみや見どころについてまとめました。

藤井竜王にとって初めての同学年棋士「伊藤匠七段」

伊藤匠七段は藤井竜王と同じ学年、2002年生まれの20歳です。藤井竜王は7月生まれ、伊藤七段は10月生まれで、藤井竜王の方が少し早く21歳になっています。

史上最年少の14歳2カ月、中学2年生の若さでプロの棋士になった藤井竜王には、なかなか同年代の棋士ができませんでした。デビューした時に2番目に若い棋士は5つも年上でした。

藤井竜王に遅れることちょうど4年、2020年に伊藤匠七段が18歳になる少し前にプロ棋士になり、初めて藤井竜王と同学年の棋士が誕生したのです。

愛知県育ちの藤井竜王に対し、伊藤七段は東京育ち。それぞれの地元の子ども大会ではたびたび優勝し、「この子はすごいプロになる」と期待されるような有望な少年でした。

小学生の全国大会「倉敷王将戦」では愛知県代表、東京都代表として出場したことはあったものの対戦は実現せず、2人が子ども大会で対戦したのは小3の冬、学年別に行われる「小学館学年誌杯」の3年生の部の準決勝の1度だけです。

この時は伊藤匠少年の勝ち。大会で負けるとよく泣くことで知られていた藤井聡太少年が、この時も大泣きしたというエピソードは将棋ファンの間では広く知られています。

期待の若手棋士、伊藤匠七段。愛称は「たっくん」

伊藤七段が幼少の頃から将棋仲間に呼ばれていた「たっくん」というかわいい愛称もファンに広く知られていますが、ストイックに将棋に打ち込んでいることもよく知られています。

デビューから順調に力をつけ、主に若手棋士が出場する棋戦の「新人王戦」(タイトルを持った人に挑戦する形ではなく、毎年勝ち上がって優勝者が決まる形式)で優勝するなど活躍してきました。

史上最年少デビューから、将棋界の連勝記録を塗り替える29連勝を記録し社会現象にまでなった藤井竜王ほど華々しい注目のされ方はしていないものの、伊藤七段も若いうちから活躍し、将来を嘱望される逸材なのです。

勝ち上がるのが難しい5組からの「下剋上」

竜王戦は実績により、約170人の現役の棋士が1組~6組に分かれ、組ごとに「ランキング戦」と呼ばれるトーナメントを行います。その成績により、毎年の竜王戦挑戦者を決める「決勝トーナメント」進出者が決まるだけでなく、翌年の組が上がったり下がったりします。

棋士になってまだ3年の伊藤七段は、今期は5組でした。5組は32人いて、1位の人しか決勝トーナメントに進めないのに対し、最上組でトップ棋士が集まる1組は16人いて、そのうち5人が決勝トーナメントに進めます。

しかも、決勝トーナメントは変則的で5組は一番下から、1組は2~4回戦分が有利なシードの位置からです。伊藤七段が5組ランキング戦と決勝トーナメントで、竜王戦の「挑戦者決定戦(決勝トーナメントの決勝戦)」に出るまでに10連勝が必要でした。

挑戦者決定戦で対戦した、1組3位の永瀬拓矢王座が挑戦者決定戦進出に必要だったのは5勝。下の組から勝ち上がるのは倍も難しいシステムのため、5組から挑戦者になったのは、伊藤七段が竜王戦史上初めてです。

「藤井世代」が「羽生世代」のような存在になれるかにも注目

将棋界では「羽生世代」という言葉がよく使われます。

53歳になったかつての七冠・羽生善治九段には、同学年の森内俊之九段、1学年上の佐藤康光九段ら、タイトル戦の舞台で何度も戦った同世代の棋士が何人もいました。羽生世代は強く、層も厚く、長年将棋界を引っ張り続けたのです。

これまで藤井七冠がタイトル戦で戦ってきたのは近くても7歳上、多くは10歳以上年上の棋士たちです。同世代とのタイトル戦は今回の竜王戦が初めて。

伊藤七段がこれまで先を走り続けてきた藤井竜王からタイトルを奪うことができるのか、また、タイトル戦の常連となり「藤井世代」が将棋界を盛り上げる時代が来るのか、注目です。

※段位、タイトル数は2023年9月29日時点

この記事の執筆者:宮田 聖子
ライター。アマチュアの将棋大会の運営を15年続けつつ、文春オンラインとマイナビ出版・将棋情報局にプロ棋士のインタビューやアマチュア将棋の記事を執筆。
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