ヨーロッパ在住の筆者が帰国時に日本の空港に降り立った瞬間から圧倒されるもの………それは、案内や注意書き看板の多さです。
看板や音声アナウンスが異様に多い日本社会
公共交通機関やお役所はいわずもがな、街中のあらゆる場所で「〇〇してください」「〇〇注意」「〇〇はこちら」といったサインが目に飛び込んできます。
「禁煙」や「立ち入り禁止」などの重要な規定以外にも、さまざまな指示、注意、場所案内、啓蒙(けいもう)を促すものなど内容は多岐にわたり、見ていて息苦しくなってしまうほど。一部では「看板公害」や「看板の洪水」などと嘆かれているのも納得の光景です。
>画像:言われてみれば異様でしょうか?
また看板以外にも、駅の電車の発着、エレベーターのドア開閉、トラックのバック運転注意など、ひっきりなしに音声案内が垂れ流されるため、視覚も聴覚も情報過多となり、帰宅する頃にはすっかり疲弊してしまいます。
このように日本に暮らしていると、家を一歩出た瞬間から看板やアナウンスという形で常に誰かからの指示にさらされ続けている状態です。私も日本在住当時は当たり前すぎて気にしたことすらなかったものの、よく考えてみると「指示は聞くもの」という思い込みが、社会全体に刷り込まれていないか心配になってしまいます。
自分で決めたいヨーロピアンと、従いたい日本人
ウィーンの勤務先での出来事なのですが、トップが事細かに定めた新社則を社員にアナウンスした途端、「ここは幼稚園ではない!」「子ども扱いするな!」と同僚たちが口々に怒りをあらわにしたのが鮮明に記憶に残っています。
日本で育ったならば、誰しも厳しい規則や指示にはある程度慣れているので、特に異論を感じるような状況ではなかったはずです。しかし、仕事を自身の裁量で進めたいヨーロッパの人たちには、他者に行動を逐一縛られることが、よほど我慢ならなかったのでしょう。メンタリティの差を感じさせられた瞬間でした。
日本人は400年前も従順に従っていた?
ところで、江戸幕府が出したと伝えられる『慶安の御触書』(1649年)に、「農民は酒や茶を買って飲んではならない」という項目があることはあまりに有名ですが、一方のヨーロッパでは、“不衛生な水代わり”とはいえ農民たちは日常的にワインやビール、その他のアルコール飲料を飲んでいたといいます。
厳しい法令に対して反乱や革命を起こすわけでもなく、従順に従っていたわれわれの祖先とのあまりの違いに驚くばかりです。
ちなみに、触書の他の項目を見ると、「朝は早起きして草刈りをし、昼間は田畑で耕作を行い、夜も縄や俵を編む仕事を休まずすること」「農民の着る衣類は麻と木綿のみとし、帯や裏地もそれを守ること」「江戸幕府の法律を守り、地頭、代官に従うこと。また名主、組頭を本当の親と思って接すること」など、日常生活のみならず、精神の在り方まで厳しく取り締まられていた模様です。
微に入り細をうがった現代の注意書き看板や、厳しすぎる校則の原点をここに見た気がします。400年前の御触書マインドから脱却して、日常的な「指示」の洪水から解放された社会を生きられないものでしょうか。
>画像:当たり前すぎて日本人には見えない?
この記事の執筆者:ライジンガー真樹
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説を中心に執筆。All About「オーストリア」ガイド。