AAA與真司郎さんのカミングアウトが「偉業」だった理由。ポップスターの変遷から見る、欧米と日本の違い

7月26日、AAAの與真司郎さんがファンミーティングでゲイであることをカミングアウトしました。ポップスターによるカミングアウトの変遷をたどり、欧米と日本の状況を比較しながら、與真司郎さんのカミングアウトの意義についてお伝えします。

AAA與真司郎さんのカミングアウトはなぜ「偉業」だったのか

與真司郎さんは、活動休止中とはいえ、AAAという大人気グループのメンバーで、そのような人が堂々とカミングアウトし、オープンリー・ゲイのアーティストとして活動を再開する決意を表明したというのは本当にすごいことでした。

與真司郎さん自身も手紙の中で、

カミングアウトを決意する前は2つの道しかないと思っていました。ひとつ目は、本来の自分を受け入れることなく、エンターテインメントの世界に居続けること。もうひとつは、エンターテインメントの世界から退いて、世間から隠れてひっそりと暮らすことでした。


と述べています。

エンタメ業界で生きる人たちにとって、カミングアウトは「ポップスターとしての死」を覚悟しなければいけない、壮絶な勇気が必要なことだったのです。
 
彼の手紙が素晴らしかったのは、世間のホモフォビアゆえに「自分はおかしいんだ」と思ってしまっていた子どもの頃の経験から、日本のエンターテインメント業界の現実に苦悩し、海外で幸せに生きるゲイカップルの姿を見て「自分らしく生きる権利がある」と気付かされたという、多くの当事者が共感するであろうストーリーを自分自身の言葉で語ったこと。

さらに、理解ある母親や周囲の人たちの支えもあり、同じLGBTQコミュニティの人たちを勇気づけ、支援するためにカミングアウトを決意したということ。ファンだけでなく、LGBTQコミュニティの皆さんにもメッセージを贈っていたのです。

彼の「希望はあると思いますし、世界は変わってきていると思います」という言葉は、この歴史的なカミングアウトの感動とあいまって、「本当に新しい時代が来ているんだ」と実感させるものがありました。
 
インターネット上では、ゲイのAAAファンが喜びや感謝の思いをつづったり、さまざまな賛辞が贈られたりしています。中には「彼が泣きながら手紙を読む姿に胸を痛めた。こんなふうに涙しながらカミングアウトしなければいけない時代が早く終わってほしい」というコメントもありました。
 

たくさんのLGBTQを勇気づけたカミングアウト

7月には、(SOGIについて明言はしていなかったものの)LGBTQコミュニティに多大な貢献をしてきた著名人の悲しい訃報もありました。SNSでは今もLGBTQへのバッシングが続いており、1人で落ち込んだり、苦しい気持ちになっていたりするLGBTQの当事者もいると思います。そんな中、與真司郎さんのカミングアウトは、きっと多くの人を励まし、勇気づけたのではないでしょうか。
 
事務所はもちろん、メンバー、周囲のスタッフ、関係する全員が認め、応援しなければ、あり得なかったことだと思います。おそらく関係者全員で、最善の形で公表しようと話し合い、プロジェクトを組んで発表の日を迎えたはずです。そうでなければ、あのような素晴らしい手紙をファンの前で読むということにはならなかったでしょう。日本のエンタメ業界もようやくここまできたか……という感慨があります。

AAAの與真司郎さんというビッグネームのカミングアウトが歴史上の大きな転機となって、今後、メジャーなアーティストや俳優などがこれに続いてくれたら……と願うものです。


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この記事の執筆者:後藤純一 プロフィール
All Aboutのセクシュアルマイノリティ・同性愛ガイド。アウト・ジャパン執行役員。京都大学卒業後、ゲイ雑誌編集者、校正者などを経て、Webメディアを中心にライターとして活躍。過去に、東京のレインボーパレードの実行委員やHIV予防啓発などのコミュニティ活動にも携わる。
 
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