「帝国ホテル」が9月で開館100周年! 建築好き必見のイベント続々、東宝製ミニチュア模型も圧巻

世界的建築家フランク・ロイド・ライトが設計した旧帝国ホテル・ライト館が、2023年9月1日に開館100周年を迎えます。全国各地で開催される関連イベントは、建築好きに限らず楽しめるものばかりです。

近代建築を代表する建築家の1人、フランク・ロイド・ライトが設計した旧帝国ホテル・ライト館が2023年9月1日に開館100周年を迎えます。ライト館はすでに解体されていますが、中央玄関部分は愛知県犬山市にある「明治村」に移設・保存され、栃木県の「東武ワールドスクウェア」には精巧な模型が展示されています。

旧帝国ホテル・ライト館の中央玄関(明治村)

日比谷公園前の帝国ホテル東京の新本館では、100周年を記念してライト館を紹介する展示が9月30日まで開催されています。さらに10月からは豊田市美術館、来春には東京でも大規模な回顧展が開催されます。かつて「東洋の宝石」とも呼ばれ、世界的にも高く評価される帝国ホテル・ライト館の歴史やその建物の魅力を紹介します。
 

明治時代から連綿と続く帝国ホテルの歴史

明治村に保存されているライト館中央玄関。深い庇(ひさし)や左右対称のデザインは平等院鳳凰堂など日本の社寺建築の影響といわれている。前面の池は災害時の消火活動にも使えるように設計されたもので、関東大震災時にも実際に使われた

1890年(明治23年)に開業した初代の帝国ホテルは明治時代の建築家・渡辺譲が設計したネオ・ルネサンス様式の木造建築でしたが、1919年(大正8年)に失火により全焼してしまいます。
 

明治村に一部、復元・保存されている2代目の帝国ホテルは、アメリカを代表する建築家フランク・ロイド・ライト(1867年-1959年)の設計で、1923年(大正12年)の9月1日に東京・日比谷で開業しました。鉄筋コンクリート造、規模は地上5階、地下1階、総床面積9500坪余と当時としては大規模で豪華な造りでした。
 

しかしオープン当日、マグニチュード7.9と推定される関東大震災が発生します。このとき東京にあった木造やレンガ造などの建築たちは軒並み倒壊、焼失するなど甚大な被害が出ました。
 

ライト館は頑強な鉄筋コンクリート造だったため、ほぼ無傷の形でその姿を保ち、被災者支援の拠点にもなります。ライト本人はアメリカに帰国中でしたが、ホテルの損害が少なかったとの報告に歓喜したという逸話が残っています。
 

その後、昭和に入ってからも日本を代表するホテルとして営業を続けますが、1945年(昭和20年)3月の東京大空襲で焼夷弾(しょういだん ※燃焼力の強いガソリンなどを詰め込んだ爆弾)を被弾、建物の半分近くを失います。その後、GHQに接収されたのち改修され、ホテルとして復活して、日本を代表するホテルとして1960年代後半まで営業しました。
 

半世紀近く日本を代表するホテルとして愛されてきたライト館ですが、躯体(くたい)の老朽化や客室不足などのため、1968年(昭和43年)に惜しまれながら解体されました。
 

3代目となる現在の新本館は1970年にオープン。設計は高島屋百貨店東京店などの設計で知られる建築家・高橋貞太郎です。地上17階・地下3階で客室数も約650室とライト館の倍以上の規模に。さらに1983年に新本館の東側に超高層の宿泊・商業の複合施設、地上31階・地下4階の「インペリアルタワー(現在の帝国ホテルタワー)」が完成して現在に至ります。
 

明治村でライトのデザインを楽しもう

左右対称のファサードを持つ明治村の帝国ホテル正面玄関

明治村に移設・保存されているライト館の建物内外の仕上げは、栃木県産の大谷石、細かな紋様が刻まれた愛知県常滑製のテラコッタ(素焼きの焼き物)や、スクラッチタイル(竹櫛で引っ掻き傷を付けたタイル)などの国産素材で構成されています。
 

くどいほどに凝った意匠を間近で楽しむ

明治村ライト館のホール2階から玄関方面を見る。玄関庇の高さは低く抑え、内部に進むにつれて徐々に開放感のある吹き抜けが現れる空間構成。エントランス上は現在喫茶室になっている

ライトがデザインした、くどいほどに凝った意匠の素材の制作に日本の職人たちは戸惑いながらも頑張って対応していきました。その痕跡を明治村で確認することができます。
 

そして照明器具やステンドグラス、「柱籠」と呼ばれる内部に透かしのある素焼きの柱、椅子やテーブルの家具類などのライトデザインが堪能できます。
 

明治村・帝国ホテルライト館の喫茶室では、ライトがデザインした椅子やテーブルでお茶を楽しむことができるので、吹き抜けや外部の池を眺めながら大正時代の設計空間でくつろぐことができます。
 

全体の構成を見るなら東武ワールドスクウェアへ

東武ワールドスクウェアで見ることができる精密な全体模型。明治村に移設された建物は中央玄関と池だけであることがよく分かる

明治村に保存されているのはライト館のエントランスの一部分だけです。かつては玄関の左右(南北)には鳥が翼を広げたような客室棟があり、背後の有楽町駅側には孔雀の間と呼ばれる饗宴場(パンケット・ホール)がありました。
 

ライト館の建物全体のイメージをさらに知りたい人には、世界の有名建築の1/25スケールのミニチュアを集めたテーマパーク「東武ワールドスクウェア」(栃木県日光市)での鑑賞がオススメ。細かなスクラッチタイルの溝までも精巧に再現されたライト館全体を見ることができます。
 

模型設計はゴジラなど特撮映画のミニチュア制作で定評のある東宝が担当。銅板吹きの屋根、南北両サイドの客室棟や中庭、中央奥の饗宴場も忠実に再現されています。
 

新本館で100周年記念展覧会を開催中

日比谷公園前にある新本館1階ロビー展示室「IMPERIAL TIMES」では、2023年9月30日(予定)まで「過去から現在、そして未来へ〜ライト館開業100周年〜」が開催されています。

ライト館の雰囲気を再現した新本館1階ロビー展示室「IMPERIAL TIMES」

この展覧会では、ライト館に使われた家具、食器類や備品、内外装に使われたスクラッチタイルの現物、従業員の制服、当時の竣工図面、ライト館の精巧な模型……などが展示されています。

>「孔雀の間」で使われたチェアも登場

また、2023年10月21日~12月24日まで愛知県の豊田市美術館では「帝国ホテル二代目本館100周年 フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」と題された大回顧展が始まります。この展覧会は巡回展で、豊田市の次は東京都港区のパナソニック汐留美術館(2024年1月11日~3月10日)で開催されます。
 

初代から約150年、2036年に「4代目」帝国ホテルが完成予定

日比谷公園から見た現在の「3代目」帝国ホテルの新本館(2023年6月撮影)。背後の超高層ビルが帝国ホテルタワー。左には地上35階の東京ミッドタウン日比谷があり、右隣のビルは現在解体中で周辺では再開発が進んでいる

日本を代表するホテルとして初代から現在まで東京を訪れる国内外の人々をもてなしてきた帝国ホテルですが、現在の新本館は2030年に営業が終了します。
 

待望の「4代目」帝国ホテルは、建築家・田根剛さんの設計で2036年の開業が予定されています。

>ライトデザインを継承した4代目「帝国ホテル」は?

時代の波に翻弄(ほんろう)されながら約半世紀にわたる歴史を生き抜いたライト館のオープンから100年の節目となる2023年。各地で開催されるイベントを通して、日本の建築物や住宅設計にも多大な影響を与えた近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトの建築物や調度品のデザインに、ぜひ触れてみてくだい。

この記事の筆者:喜入時生プロフィール
美術大学卒業後、建築設計事務所でインテリア・住宅の設計・デザイン業務に携わる。その後、建築専門月刊誌等の編集者を経てインテリア・建築・住宅関連の編集者/ライターに。All About「インテリア・建築デザイン」ガイド。
 

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