「LGBT理解増進法」とは、どんな法律? これまでと変わること&変わらないこと、企業がすべきことは何か

6月にLGBT理解増進法案が国会で可決・成立しました。今後、政府が基本計画や指針を策定することになっているため、詳しいことはそちらを待ってからということになりますが、法律の概要や現時点で伝えられることを解説します。

「“全ての国民”が安心して」物議を呼んでいる第12条の内容とは?

特に、注目されているのは第12条。法律に定める措置の実施にあたり、SOGIにかかわらず「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」という、留意事項の条文が設けられている点です。

一部の議員らが「LGBTQ施策を規制することができる」という趣旨の発言もしているように、この条文が付け加えられたことによって、自治体や企業によるこれまでの先進的な取り組みを萎縮させたり、差別禁止条例の制定の抑止に利用されたりするのではないかといった懸念が当事者団体から表明され、むしろLGBTQに対する理解を「阻害」する法案だ、などとして抗議運動も展開されました。

しかし、LGBTQを犯罪者であるかのように扱い、「安心できない」などと言ってLGBTQ施策を抑制したり、当事者の人権を脅かすような主張をしたりすることは、憲法や新法の基本理念に照らせば、不当な差別であることは明らかです。

日本大学大学院の鈴木秀洋教授も「憲法には『個人の尊重』や『差別の禁止』が定められ、新法の基本理念でも『不当な差別はあってはならない』とある以上、12条の『留意』規定で性的少数者の権利を制限するような解釈はできない」と述べています。
 

いずれは国際基準のLGBTQ差別禁止法も制定されるべき

5月に開催されたG7広島サミットの首脳声明には「あらゆる人々が性自認、性表現、あるいは性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく、生き生きとした人生を享受することができる社会を実現する」と明記されています。日本はこの国際社会との約束を果たさなくてはいけません。

ちなみに今回のサミットに合わせて、史上初めて「Pride7(P7)」というエンゲージメントグループが立ち上げられ、LGBTQの人権保護に関する政策提言を行ったということは、世界に誇れる出来事でした。
  
いずれは、LGBTQ差別を禁止する国際基準にのっとった法も制定されるべきでしょう。また、実は以前から企業のLGBTQ差別禁止に関する法律は少しずつ整えられ、職場でのLGBTQ差別の防止策に取り組むことがすでに義務化されています。

そもそも、こうした取り組みや施策は、LGBTQが差別を受けることなく安心して生きていける社会を目指すためにあるということを忘れず、当事者の困りごとに寄り添いながら、差別防止に努めていきましょう。


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この記事の執筆者:後藤純一 プロフィール
All Aboutのセクシュアルマイノリティ・同性愛ガイド。アウト・ジャパン執行役員。京都大学卒業後、ゲイ雑誌編集者、校正者などを経て、Webメディアを中心にライターとして活躍。過去に、東京のレインボーパレードの実行委員やHIV予防啓発などのコミュニティ活動にも携わる。
 
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