世界一の美食の街といわれる、スペイン・バスク地方。その本格的なバスク料理が、三重県の多気町で味わえることはご存じでしょうか? 2021年にオープンした商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」内には、バスク料理を味わえるバルやレストランが数軒入っており、美食を通じてバスク文化を発信しています。本年は「日本×バスク交流 2023年」として「バスク美食フェス in VISON」も開催されました。セレモニーの様子とともに、VISONのバスクレストランをご紹介します。
「美食を通じた友好の証」で結ばれるスペイン・バスク地方と三重県多気町
スペイン・バスク州とは、スペイン北部の大西洋に面した自治州で、海山の幸が豊富。北部最大の都市・ビルバオにあるグッゲンハイム美術館は、アートや建築好きにも有名な場所です。バスク地方は芸術、そして美食の街として世界中に知られており、ミシュランの星付きレストランが最も多い地域といわれます。特にリゾート地としても人気の高いサンセバスチャンは、気軽な居酒屋から高級レストランまで、たくさんの飲食店がひしめき、1日に何軒もハシゴできる、バル巡りがこの街の魅力。食いしん坊なら1度は訪ねたい理想郷と言っても過言ではありません。
そして、全国から多くの参拝客が訪れる伊勢神宮を擁する三重県には、松阪牛、伊勢エビなど日本を代表する最高峰の食材がそろっています。アワビ、サザエ、カキ、ウナギなど豊富な魚介があるかと思えば、伊勢うどん、てこねずし、津ぎょうざなど、庶民的な郷土料理やB級グルメまで、幅広いジャンルのおいしいものがめじろ押し。やはり食いしん坊がこぞって訪れたくなる地域といえるでしょう。
そんな三重県多気町とスペインのサンセバスチャン市は、 2017年1月に「美食を通じた友好の証」を締結し、文化交流が行われています。それを契機にVISONには、現地で人気のバル3店舗「ARATZ(アラッツ)」「Casa Urola(カサ・ウロラ)」「Zazpi(サスピ)」がオープン。さらに「IZURUN(イスルン)」は、バスクのミシュラン3つ星レストランで研さんを積み、バスクへの愛と敬意にあふれる中武亮シェフが料理長を務めるレストランです。同シェフ監修によるバスクチーズタルトの店「EGUN ON(エグノン)」もあります。日本で本格的なバスク料理を味わえる店がこれだけぎゅっと集まっていて、バルホッピングも楽しめてしまう、そんな場所はここVISONだけではないでしょうか。
「バスク美食フェス in VISON」開催にあたり、5月29日にはプレス向けセレモニーが行われました。バスクの産品である証「EUSKO LABEL」の認証機関であるhazi財団のミケル・アリジャガ氏をはじめ、各現地レストランのシェフがスペインから、そして日本からは、VISONにもパティスリーを展開しているパティシエ・ショコラティエの辻口博啓氏、ヴィソン多気株式会社代表取締役の立花哲也氏、多気町長の久保行央氏らが集まりました。各あいさつでは、互いへの感謝の気持ちと、この交流を末長く続け、今後さらにバスク文化を広めていくことへの強い意気込みが語られました。
VISONにて、バスク文化と美食を体験
「バスク美食フェス in VISON」では、たる出しりんご酒の体験や、バスクワインを楽しむ講座などが開かれましたが、この日の目玉の1つはワイン勉強会。世界中でワインセミナーやテイスティングを開催し、テレビやラジオの出演、料理学校での授業など、多方面に活躍するバスクのスーパーソムリエ、ミケル・ガライサバル氏による講座です。日本中のバスク料理に携わる多数の料理人やソムリエなどが参加していました。バスクを代表する白ワインのチャコリを2種、高級ワインの生産地といわれるリオハ・アラベサの赤ワイン2種、そしてナチュラルなシードラ(りんご酒)などをテイスティング。バスクの代表的なピンチョスもサーブされ、実践的なペアリングも。
「バスクは小さな街だけれど、海も山も草原もあり、自然が豊かで魅力的な食材にあふれている。皆さんにはぜひバスクのアンバサダーになってもらいたい」とミケル氏。ミケル氏のトークは所々にユーモアを交え、終始和やかなムードで笑いがあふれつつ、テイスティングでは皆さん真剣な表情になり、学びの深い勉強会でした。また、料理人同士が交流を深め、互いに情報交換していたことも、日本のバスク料理のさらなる進化につながっていく期待を感じさせました。
夕方には、日本にバスク文化を伝えた第一人者として知られる、函館「レストランバスク」の深谷宏治シェフによる、トークショーを開催。深谷シェフのバスク料理との出会いやこれまでの取り組み、今後の展望などが語られました。
函館で毎年開催されている大人気の食べ歩きイベント「バル街」は、深谷シェフが発起人となり、気軽に何軒も店をハシゴしながら飲食を楽しむバスク文化から着想を得て行われています。さらに、国内外で活躍する名だたる料理人たちが自身の料理哲学や知識、技術をオープンにプレゼンテーションし、互いに交流することで料理業界全体の向上を目指す「世界料理学会」という活動があります。これはもともとバスク地方のサンセバスチャンから始まった「新バスク料理運動」の流れを組むもの。深谷シェフはこの実行委員会代表を務めています。世界料理学会は、2022年にVISONでも開催され、日本の料理界をけん引するような多くのシェフが集まり大盛況となったようです。
夜はイスルンにて、今回限りのスペシャルディナーを開催。バスクと三重が融合し、4つのレストランのシェフの饗宴となりました。ワインは全て、ミケル・ガライサバル氏によるセレクトです。以下メニューを紹介します。
生でも食べられる河内鴨のたたきとチストーラ。チストーラとは、スペインのバスク州、アラゴン州、ナバラ州で作られる、塩漬けのソーセージ。バスクでは毎年12月21日に開催されるサント・トマスの日に、とうもろこし粉を練って焼いたタロというトルティーヤのような生地にチストーラを挟んで食べるのが伝統的です。飲み物はシードラ(りんご酒)を合わせるのがお決まり。
サンセバスチャンの伝統的なスープ。三重の食材を使ったシーフードクリームの下にウニのラビオリが潜んでいます。とてもうま味の深いスープです。爽やかに酸のあるフレッシュな微発泡のチャコリを合わせて。
マルミタコとはバスク語で「鍋」の意味。バスクの昔ながらの伝統料理です。カツオなどの魚介を野菜と一緒にじっくり煮込んで作ります。料理に合わせ、伝統的で、より骨格のあるチャコリをセレクトしたとのこと。
牛肉の煮込み料理もバスクではポピュラーな伝統料理です。全て三重の食材を使ったそうですが、その代表は言わずと知れた松阪牛。三重県松阪市およびその近郊で肥育された牛をいい、日本三大和牛の1つです。「肉の芸術品」とも呼ばれています。スペインの銘醸地リオハ地区の代表的な赤ワインと共に。
チュウレタとは、牛肉の炭火焼ステーキのことで、中武シェフが山間の街トロサで初めて食べたチュウレタのあまりのおいしさに衝撃を受けたという、思い出深い大好きなメニューだそうです。同じくリオハの正統派赤ワインで、よりエレガントな味わいを。
全て伝統的なバスク料理がベースとなり、三重の食材をふんだんに使ってモダンで上品に仕上げられていました。今回のメニューは一期一会でしたが、IZURUNの雰囲気は伝わっているのではないかと思います。地域の誇りを感じさせるような厳選された三重の食材を使い、中武シェフらしい独自の表現で料理を提供しています。IZURUNはガストロノミーレストランですが、中武シェフが大切にしているのはバスク文化とともにバスク人の本質で、真面目で人情深く、みんなを笑顔にしたいという思いが強い、彼らへの人間的な敬意も含めて、料理や空間に表現されています。