日本でもいくつかの大学や空港などでは既に設置されているオールジェンダートイレ。ジェンダーレストイレ、ジェンダーフリートイレ、ジェンダーニュートラルトイレ、全性別トイレなどとも言い換えられ、LGBTQなどの性的マイノリティーを含む全ての人が利用できる施設を指します。性的少数者だけでなく、異性の介護者や子連れの利用者など、従来の男女別トイレでは不便さを被っていた人々にとっても革新的な提案といえるでしょう。
この春には、東京の東急歌舞伎町タワーでも導入が開始され話題となりましたが、鳴り物入りの登場とは裏腹に物議を醸し、早々に試みは暗礁に乗り上げてしまった様子。この他にも国内で「女子トイレを守ろう!」との署名活動が始まり、2万筆超えの署名が集まったとのうわさも聞きますし、反対の声は予想以上に強い模様です。
>トイレマークの下に意外な“断り書き”が!
ヨーロッパのジェンダートイレ事情
ヨーロッパの現状はどうかというと、多様性を重んじるアカデミックな大学を筆頭に、公共交通機関のターミナル駅、病院、カフェ、ナイトクラブなど、需要に応じてオールジェンダートイレが徐々に増えてきています。
中でもスイスのチューリッヒ市は、「全ての学童は性別に関係なくトイレを使用できる。彼らを差別から守るべき」との見解から、市内の公立校で全性別用トイレの建設を進めており、将来的には新しい校舎のトイレの3分の1をジェンダーフリーとする予定だといいます。またルツェルン市においても、同様の考えから学校の各校舎への順次導入を2021年度末に決定しています。
「盗撮への不安」はないのか?
ジェンダーフリートイレ設置に当たり、日本でよく心配されるのが盗撮カメラの存在です。他方ヨーロッパでは「子どもが犯罪の対象にならないか」という懸念は一部であるものの、盗撮を不安視する声はほどんど聞かれません。
というのも、ヨーロッパでは驚くほど開放的なファッションの女性が多く、特に夏ともなると胸元やおなか、背中、太ももなどを「これでもか!」と晒したご婦人方が街にあふれかえるのです。その露出ぶりは、Netflix(ネットフリックス)の人気ドラマ『エミリー、パリへ行く』を地で行く感じと言えばお分かりいただけるでしょうか。
加えて、自庭のデッキチェアや公園の芝生などでもあらわなビキニ姿で日光浴する女性を見る機会には事欠かないですし、ヨーロッパの男性もそんなオープンな女性の姿を子どものころから見慣れています。
また、ドイツ語圏やフランスなどでは「自然への回帰」をモットーとする裸体主義者たちのためのヌーディストビーチやヌーディストエリア(プールやサウナ、ジムなどに設置)が各地に設けられているので、日本ほど女性のヌードが特別視されない文化的背景もあります。従って、わざわざオールジェンダートイレに盗撮機器を仕掛ける需要も少なさそうな印象です。
差別的!?「小便器」も議論の対象になっている
この他にも、ヨーロッパでは小便器も議論の対象となっており、調査を進める中で、
“小便器は差別の象徴”
“過去の遺物だ”
“現代のスタンダードに見合わない”
といったコメントにたびたび行き当たりました。
「手軽に用を足せる小便器に女性用がないのは不平等だ」「小便器コーナーでは男性のプライベートが確保されていない」などの意見が聞かれるほか、ドイツのベルリンやオーストリアのウィーンにある一部のトイレでは、通常50セントの使用料が請求されるのに対し、男性の小便器は無料で利用できることにも、女性側から抗議の声が上がっているとのこと。
気になった筆者も、スイス・バーゼル市の鉄道ターミナル施設内にあるトイレをリサーチしてみました。2022年10月時点の使用料は下記の通り、男性が利用する小便器の使用料が安く設定されていました。
・個室トイレ……2スイスフラン
・小便器……1.5スイスフラン
・おむつ交換代……2スイスフラン
ところが、2023年6月時点では下記のとおり、男女子ども間での価格差が廃止されて一律料金になっていました。
・個室トイレ……1.5スイスフラン
・小便器……1.5スイスフラン
・おむつ交換代……1.5スイスフラン
現地では、2022年末にこの価格差に憤慨するツイートが拡散され、利用者の怒りの声を真摯(しんし)に受け止めたSBB(スイス連邦鉄道)のCEOがすぐさま是正に動いたと報道されています。
オールジェンダートイレはまだ始まって間もない取り組みですので、これからクリアしていく課題は多そうです。特に日本人は恥じらいの強い民族ですので、オールジェンダートイレが受け入れられるかは未知数ですが、そのうち誰にとってもハッピーな解決法が見つかることを望んでいます。
この記事の執筆者:ライジンガー真樹
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説を中心に執筆。All About「オーストリア」ガイド。