“運営側”も生身の人間……アーティストを支える側の苦悩も
ゆりこ:はい。以前あるアーティストとお仕事で関わった際、たまたまその方がメンタル不調で苦しんでいる時期だったんです。詳しい内容は伏せますが、その際に担当マネージャーから支える側の苦悩をいろいろ聞きました。支える側も精神医療のプロではないので、そばで一生懸命ケアしようとすればするほど疲弊してしまうんです。主治医の先生の話とアーティストの言葉の間で揺れたり、またアーティストの症状が悪化すると自分を責めてしまったりもする。
矢野:アイドルもスタッフもみんな「生身の人間」ってことを改めて思い出さないといけないですね。K-POPの売りの1つは「完璧さ」で、本人もスタッフも一丸となってそこを目指すし、ファンもつい望んでしまう。そして実際に発表される音楽やパフォーマンスってほぼアラがない。だからうっかり忘れがちになるのですが。
ゆりこ:そう。運営側も生身の人間。第三者から見ても、身近な少数のスタッフだけで対処するのは厳しいなと感じました。一時的に関わっていただけの私ですら「結局、何もしてあげられなかった」という無力感が残りましたから。じゃあどうすれば良かったんだろう、ってことなのですが。
矢野:人の、特に著名人の健康問題ってものすごくセンシティブな個人情報じゃないですか。だからオープンにしにくいだろうなと想像できます。ごく一部のスタッフだけに情報共有して、その中で対処しようとしたり。
ゆりこ:医療的なプロを巻き込んだチームを作って、複数人で対応していくのが理想でしょうね。すでに実行している事務所もあると思いますが。あとはスタッフ側にも心身の余裕を作ってあげないと受け止めきれない。
矢野:担当アーティストのカムバ(新譜リリース)期間やツアーの前後はスタッフもハードワークの日々でしょうね。
ゆりこ:だから、アイドルの体調不良や訃報が出た時に「事務所の対応」「スタッフの責任」が問われるたび、スタッフのメンタルケアや労働環境も同時に見直してほしいなと思ってしまいます。それが回り回ってアーティストを救うことにもなるので。
矢野:改善すべきはシステムと環境ですね。
ゆりこ:まさに。最近、SMエンターテインメントの所属アーティストが続々と活動をお休みしていますが、長期的な目線で見ると決してマイナスな動きではないと思います。どんな人気アイドルであろうと、大きな仕事が控えているタイミングであろうと、「不調な時はすぐに休む」というのを当たり前にして、休むハードルを下げるというのをどんどんやってほしいと思います。もちろん、その前段階として、体調不良者を出さないというのが理想ですが。
矢野:一時的に体調不良のアイドルが増えたように感じるかもしれませんが、もしかしたら昔は隠して無理させていただけかもしれませんし。
ゆりこ:そうそう。幸運にもうまく回復できた人が、何事もなかったかのように振る舞い続けている可能性もある。もちろん休養のニュースにはネガティブな反応も付きものですし、ファンとしては会えない寂しさもあるけれど、個人的にはむしろ「自分を大事にしてくれてありがとう!」って気持ち。
矢野:僕もTWICEファンとして、メンバーの休養が発表された時は「次のライブでは会えないのか」と寂しく思ったので、残念に思うファン心も分かります。心配にもなりますしね。そんな時に、やっぱり考えてしまうのは「ファンとして何ができるんだろう」ということなのですが。