海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン 第15回

日本の街中が「ゴミだらけ」になった? 海外在住の日本人が3年ぶりの帰国で驚いた日本の変化

年金制度改革に対するストライキによって、フランス・パリの街は回収されないゴミであふれ返ったと聞きます。3年ぶりに帰国した2022年、筆者も日本の都市部がゴミだらけで衝撃を受けました。

日本の街中にゴミが増えた?

日本の街にゴミが増えた?(画像はイメージ)

フランスでは年金制度改革に対するストライキが勃発し、パリの街は回収されないゴミであふれ返ったと聞きました。それで思い出したのが、以前に東京在住のブラジル人から「日本の街はゴミが落ちていなくてキレイね!」と褒められ驚いたこと。ずっと日本に住んでいると、清潔な風景は当然のことと捉えがちですが、海外に出かけるとあらためてそのありがたさに気付きます。
 

しかし3年ぶりに帰国した2022年に日本の都市部で目にしたものは、ゴミ、ゴミ、ゴミ! さすがに住宅街はこぎれいな地区が多かったものの、繁華街には壊れた傘や空き缶、小さなゴミが点々と転がっており、その荒れ具合に「日本、どうしちゃったの!?」と衝撃を受けました。
 

清潔さと民度の高さは日本の売りだというのに、なぜこうなったのか。2022年秋までは、まだ外国人観光客の入国が解禁されていなかったので、彼らの仕業とも思えません。では各自治体の施策が迷走しているのか。それともコロナ禍に関連するなにかしらの後遺症か、日本人のゴミ捨てマナーの問題なのか?
 

ヨーロッパの都市はゴミだらけ

……ときに、筆者の住むスイスのバーゼル市はとても清潔で、ゴミもほとんど見かけません。ドイツ・フランスとの三国の境に位置しているので、日常的に隣国へ越境する機会があるのですが、国境を越えた瞬間に、ガラッと景色が変わるのが実感できます。

市民の憩う公園(スイス・バーゼル市)

隅々まで清潔感が漂うスイスの街並みから、ガラクタが散乱する薄汚い景色へと一変するのです。パリやロンドン、イタリア主要都市などを訪れたことのある人は目撃したこともあるでしょうが、あの、ゴミが多く不衛生な都市の多いヨーロッパにおいて、スイスの街は一体どのように清潔さを保持していられるのでしょう?
 

スイス人は「意識が高い」

まず第1に考えられるのは、スイス人の多くがモラルを守り、マナーも良いということ。
 

「街にゴミがあふれ返るのは、テロ行為の頻発以来、ゴミ箱が削減されたからだ」という意見がよく聞かれます。確かにそれも一理あるのでしょうが、実はバーゼルの街にはあまりゴミ箱がありません。私が以前長く住んだ隣国オーストリアのウィーンでは、街角ごとに必ずゴミ箱が設置されていましたが、それと比べてバーゼルはゴミ箱が圧倒的に少なく、不便な環境です。それにもかかわらず、公共の道路や公園だけでなく森や野山を散策していても、ゴミは数えるほどしか落ちていません。
 

また、スイス人たちの中には、「落ちているゴミを見たら拾わずにはいられない」「定期的にボランティアでゴミ拾いをしている」という人が少なからずいますし、総じて意識が高いのでしょう。
 

「潤沢な資金」にものをいわせる

クレディ・スイスの年次報告書「グローバル・ウェルス・レポート 2022」にもあるように、スイスは成人1人当たりの純資産がトップを独走し続ける非常に裕福な国家です。その資金力は、もちろん清掃分野でも遺憾なく発揮されています。
 

バーゼル市中心街の道路や広場は365日、毎日2回ずつ清掃されており、約950個のゴミ箱の廃棄物が回収されない日はありません。
 

清掃は、風圧洗浄機と清掃車による毎日のドライクリーニングに加えて、市街地全体の水洗浄も定期的に行い、粉塵の発生を防いでいます。特にサッカーの試合などのイベント後や、年に1度のファスナハト祭(スイス最大のカーニバル)開催中には清掃サービスが臨時追加され、街が徹底的にきれいにされるのですが、これが可能なのも潤沢な資金があってこそでは。

毎日巡回する風圧洗浄機と清掃車。大通りは大型清掃車、住宅街は小回りのきく小型(写真)と使い分けられています

「罰金」設定、厳しい管理も一役買っている

清潔な街並みを維持するためには、厳しい処罰もいといません。バーゼルシュタット条例によると、以下が罰金対象となります。

・ポイ捨て:100フラン(約1万4000円)
・公共のゴミ箱への家庭ゴミ廃棄:100フラン(約1万4000円)
・家庭ゴミ・大型ゴミ・電化製品の不法投棄:200フラン(約2万8000円)
・時間外のゴミ出し:50フラン(約7000円)
(※為替レートは2023年3月時点のもの)
 

2021年統計では、バーゼル市で合計784件の罰金が科されたそうです。
 

これらは州警察および、環境エネルギー局の廃棄物検査官によって管理されており、ポイ捨て対策の市内パトロールや、市の清掃部門および住民からの通報(という名のチクり)に基づいて、不法投棄や時間外のゴミ出しの詳しい調査がなされています。
 

以上3点がうまく補完しあって、スイスはあれだけの清潔さを保っているように考えられます。日本も住民の道徳心が強く、厳しい法整備なしでもうまく回っていた時代は良かったのでしょうが、残念ながら現在はそうではなくなってきている様子。スイスのように潤沢な財源にものをいわせることも非現実的ですし、どうすれば事態が好転するのでしょう。
 

日本には「お掃除風水」という考え方がありますが、国を挙げて清掃事業を推し進めるスイスの金満ぶりを目の当たりにすると、掃除と金運が結びついているのはあながちうそではないような気もしてきます。日本の自治体も清掃費を節約するのではなく、そこに大きく投資することで街がきれいになるばかりか景気回復の起爆剤に……なってほしいものです。

ライジンガー真樹のプロフィール
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説記事を中心に執筆。All About オーストリアガイド。
 

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