中学入試で第一志望に合格できる子は、受験生の3人に1人、4人に1人とも言われています。なかには1校も合格できず、公立中学に進学する子もいるのが現実。うまく切り替えて中学校生活を楽しめている子と、立ち直れず不登校になってしまった子、2人の違いはどこにあるのでしょうか。それぞれの保護者に話を聞きました。
中学入試の受験者数は過去最多、「全落ち」も珍しくない世界
コアネット教育総合研究所が2023年2月に公表した「2023年首都圏中学入試総括レポート」によると、2023年度首都圏中学入試の受験者数は6万6500人となり過去最多。中学受験率も 22.6%と過去最高を記録し、受験者数は8年連続で増加する結果となりました。
優秀な子が全力を尽くしても、第一志望に手が届くとは限りません。受験をするのはまだまだ未熟な小学6年生なので、志望校の決定、受験校のスケジュール管理や出願、当日までの体調管理やメンタルケアまで、親の役割も相当なもの。最終的な受験校選びや想定外のときのプランBの発動など、臨機応変な親のプランニング力も試されます。
多くの受験生は合格確実な、いわゆる滑り止め校を受験して第一志望が不合格だった場合の進学先を確保しますが、なかには本人や親の強い意志で難しい受験を強行するケースもあります。「全落ち」からの公立中進学という道を選んだ2人の例をご紹介します。
ケース1. 偏差値60以下は「行かせない!」…難関校にこだわった結果
中高一貫校、国公立大学の医学部を経て医師となったDくんの父親。息子の教育には熱心で、自分の母校に息子を入学させたいという思いが強くあったそうです。
「『偏差値60以下の中学なら行かせる意味がない、ダメなら公立へ行け』というのが夫の口癖で。息子なりに頑張ったんですが、受験する前から結果は見えていたようなものでした」(Dくんの母親)
塾からは安全校も確保するよう進められたものの、父親がかたくなに拒否。
「合格発表の翌日に夫が『お前は“2月の敗者”なんだから高校受験でリベンジするんだ』と言って高校受験の準備講座に申し込もうとしたときは、さすがに息子がかわいそうで」
学校でも、志望校を公言していたDくん。残念な結果に対して心ない冷やかしの声に傷つき、学校に行くのがつらくなってしまいました。「公立なんてはずかしくて行けない」と、中学にもほとんど通えていない状況です。
ケース2. 「東京六大学野球でプレーする!」…大学付属校への強い意志
地域の少年野球チームではピッチャーとして活躍。抜群の運動神経でチームの要として活躍しつつ、小4からはS塾に通い、中学受験の勉強とも両立したEくん。
最後の1年間は大好きな野球も休んで塾に通ったものの、結果として志望校への進学は叶いませんでした。何年たっても不合格の思い出は「つらい」というEくんの母親。そんな気持ちを知ってか知らずか、本人は意外にも短期間で立ち直り、今はすっかり公立中学での生活を満喫中。毎日楽しく通っているそうです。
「受験が終わったとき、結果を知った野球仲間たちから『お前と同じ中学に行けるんだ、うれしい!』と声をかけてもらえたことが大きかったようです。『残念だったね』などと余計な気を遣う子もいなくて。本当にありがたかったですね」(Eくんの母親)
幼少期から野球に打ち込み、仲間との関係を大切にしてきたEくん。ポジティブなメンタルや切り替えの早さは、スポーツで培われたものなのかもしれませんね。
中学では野球部に入り、高校受験で再び東京六大学野球の付属高校を目指しているEくん。高校受験に向けて再びの塾通いは忙しいようですが、中学受験時代の勉強は、特に理科と社会に関して大きなアドバンテージになり、学業は順調。塾内では最上位クラスを維持しているのだとか。アツくてあたたかい野球仲間と共に目指す未来は、今度こそ明るいに違いありません。
始まったばかりの12歳の人生、たとえ理想的な結果ではなかったとしても、「失敗」でも「敗者」でもありません。子どもにとっても、支える家族にとっても過酷な中学入試。その経験を生かして前向きな気持ちで次のステージへ進むには、子どもたちを取り巻く周囲の環境が大きいかもしれません。
古田綾子 プロフィール
雑誌・ウェブメディアの編集者を経てフリーランスライター。2児の母。子どもの受験をきっかけに教育分野に注力。自らの経験にもとづいた保護者視点で、教育界の生の声やリアルな体験談などを取材・執筆。
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