タイパとは、“Time Performance(タイムパフォーマンス)”という言葉から来ており、時間あたりの満足度を意味する言葉としてZ世代を中心に広がっているそうです。お気付きの通り、コストパフォーマンスの“時間版”と言えば分かりやすいでしょうか?
映画や小説の結末を先に知って(面白いことを確認して)から実際に見たり、動画を倍速視聴したりという行動も、タイパという価値観とつながっているといわれています。今回はそんなタイパという概念と嗜好(しこう)品について考えてみたいと思います。
タイパと嗜好品の「対極」な世界観
考えてみると、嗜好品はタイパという価値観の対極にありそうです。
というのも、一般的に嗜好品と呼ばれるものは、ワインにせよ、コーヒーにせよ、本当の面白さを感じるまでには学習という助走期間が必要になってきます。
この助走期間とは、例えば「苦いなぁ~」と思いながらビールを飲んだり、「おいしさ」を感じられないままワインを飲んでいるような時期だったりします。
その先にどれほど面白い世界が広がっていようとも、タイパという価値観に当てはめれば“助走期間”は満足度の低い時間であり(時にはマイナスになることさえ)、タイパ価値は極めて低いものになってしまいます。
「飲み会」でうんちくを語る人の価値
タイパと嗜好品の関係を考える前に、これまで嗜好品における助走期間がいかに担保されてきたのか考えてみましょう。
助走期間には「入り口の存在」と「水先案内人の存在」が大事になってきます。入り口とは、つまり“きっかけづくり”で、水先案内人とは“楽しさ・面白さを教えてくれる人の存在”です。
お酒に関しては、この2つを担っていたのが「飲み会」といえるでしょう。初めは付き合いであっても、飲み慣れていくうちにお酒に興味を持ち始めた人もいるのではないでしょうか?(もちろん、品のない飲み会ばかりに誘われてお酒を嫌いになった方もいるかとは思いますが……)
飲み会には、入り口(=お酒を飲む機会)と水先案内人(=うんちくを語ってくれる人)がそろうことが多く、嗜好品(=お酒)の楽しみ方を深めていくという点では実はうまく機能していたといえます。
タイパと嗜好品の付き合い方
では現代において、嗜好品はタイパという価値観にどうやって向き合っているでしょうか? 結論から言うと、商品コンテンツを拡大して体験価値を高めるというのが1つの解のようです。
2022年2月に恵比寿にオープンした体験型ワインショップ&バー「ワインアット エビス」はこの好例といえるかもしれません。
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