日本で「賃上げ」が進まない根本原因。「高賃金、でも解雇当たり前」になる覚悟はあるか

全国的に賃上げの機運が高まっているが、給料が伸び悩む日本の根本的な問題とは何だろうか。昨今の日本人の生活が苦しい原因をおさらいし、日本で賃上げが進まない原因を分かりやすく簡単に解説する。

「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが給料を最大4割引き上げるなど、全国的に賃上げの機運が高まっている。給料が伸び悩んでいた日本にとっては朗報と見える。しかし、根本的な問題は解決されていないため、実は十分な賃上げとはいかないかもしれないのが現実である。
 
昨今の日本人の生活が苦しい原因をおさらいし、日本で賃上げが進まない原因を分かりやすく簡単に解説する。
 

物価高の原因と日本で賃上げの機運が高まっているワケ 

昨今、「今年こそは」「ラッシュ期待」など賃上げに関する報道があふれているが、背景にあるのは「歴史的な物価高」だ。
 
総務省が1月20日に発表した2022年12月の全国消費者物価指数は前年同月比で4.0%上昇した(※1)。上昇率はオイルショックの影響が色濃い1981年12月以来41年ぶりの高水準になった。
 
食料やエネルギーの多くを輸入に頼っている日本だけに、ウクライナ危機以降の資源価格の高騰や円安による輸入物価の上昇が直撃した格好だ。12月の調査ではエネルギーは15.2%、食料は7.4%と大きく伸びている(※1)。特に消費者の需要が増えているわけではないが、仕入れ値が上昇を続けているため、モノを供給する企業が泣く泣く値上げした形だ。
 
消費者にしてみれば給料は変わらず、値上げが相次げば生活は苦しくなる。そのような状態が続けば、当然、生活必需品以外は売れなくなり、経済は停滞する。この負のサイクルを避けるために賃上げの動きが広まっているわけだ。
 
だが、どこまで広がるかは未知数だ。1981年当時の平均賃上げ率は前年比7%を超え、物価上昇率を上回る賃上げを実現していたが、2023年の平均賃上げ率は3%にも満たない予測が目立つ(※2)。平均賃上げ率そのものは21世紀以降では最大の伸び率になりそうだが、物価高を補うには十分とはいえないかもしれない。
 

「高賃金だが、解雇も当たり前」になる覚悟はあるか

日本の給料の水準が約四半世紀、ほぼ変わらないのは聞いたことがあるだろう。30年前に比べてアメリカなどの先進国は給料が1.5倍程度になっているが、日本はほぼ横ばいで2015年には韓国にも抜かれている(※3)。
 
この原因はいくつもあるが、多くの識者が挙げるのが「終身雇用制度」だ。日本では企業は簡単には正社員を解雇できない。これは良い面ももちろんあるが、企業にしてみれば社員を雇い続けなければいけないから、給料を簡単には上げられなくなる。筆者も、記者時代に「賃上げと言われても1回給料を上げたら下げられないからね……」と何人もの経営者からぼやかれたことがある。
 
日本全体がかつてのような右肩上がりの成長を遂げる見通しがあれば、現在の雇用慣行でも持続的な給料アップは期待できる。だが、低成長しか見込めない今となっては、雇用を維持しなければいけない縛りがある以上、大きなアップは見込みにくい。2023年の賃上げは明るい兆しだが、給料を上げにくい構造は横たわったままだ。
 
以前から経済界には解雇規制を緩和すれば給料も上がるという声は根強い。一方、働く身からするとどうだろうか。(本当に給与をアップするかどうかはともかく)給料は上げるけれども解雇も当たり前になる覚悟はあるのか、と問われたら二の足を踏む人も少なくないはずだ。
 
Twitter社を買収したイーロン・マスク氏による容赦ないレイオフに、「日本の会社でよかった」と胸をなでおろしたおじさんも少なくないだろう。「それならば、今のままでいい」という声も聞こえてきそうだ。「別に不満はない」という声もあるだろう。タラタラ働いて、そこそこの給料がもらえればいいではないかと。
 

このまま“安い国”を独走し続けると日本はどうなる?

確かにインフレが起きているとはいえ、日本は住みやすい国だ。500円でおなかいっぱいに食べられるファストフードは山ほどあるし、1000円も出せばラーメンに豪華にトッピングができる。給料が安いとはいえ、生活を切り詰めれば、そこまで困らない。給料が安くても、物価が異常に上がらなければ多くの人の生活は安定する。ただ、問題は日本だけが「単独で安い」ことだ。
 
iPhoneのような海外からの輸入品や海外ブランド品などは割高に感じるようになって久しい。日本には、欧米やアジアから多くの観光客が訪れるが、日本人は海外旅行をする余裕がなくなりつつある。日本人の購買力(モノを買う力)は確実に低下している。
 
日本だけが賃金が安いことの問題は、労働力にも影響する。優秀な若い人材が海外で働くことも増えている。海外に「出稼ぎ」に行く人たちがニュースでもしばしば取り上げられるようになった。人口が確実に減少する中、労働力をどのように確保するのか。今ですらコンビニや飲食店、建設現場では外国人の働き手が目立つ。移民を受け入れるか否かの問題も出てくるだろうが、そもそも“安い日本”で働こうという外国人は将来どれだけいるのだろうか。ロボットが労働力不足を補うにはまだ時間が必要だ。
 
「低成長」の中、「終身雇用制度」を続けるのならば、給料の大きな上昇は期待できず、“安い国”をひた走ることになる。何かを得るには何かを手放さなければいけない。全部取りは現実的でない。私たちはどのような働き方をしたいのか。そろそろ考え直さなければいけない時期に差しかかっている。
 

<参考>
※1:2020年基準 消費者物価指数 全国 2022年(令和4年)12月分(総務省統計局)
※2:ESPフォーキャスト1月調査(公益社団法人 日本経済研究センター)
※3:日韓の平均賃金、最低賃金、大卒初任給の比較-購買力平価によるドル換算の平均賃金、最低賃金、大卒初任給は韓国が日本を上回る-(ニッセイ基礎研究所)
 
 
栗下直也 プロフィール
産業経済の専門紙にて17年間、経済記者として自動車、電機、金融、エネルギーの各業界、経団連などを取材。著書に『13歳からのニューズウイーク』(CCCメディアハウス)など。横浜国立大学大学院博士前期課程修了(経営学専攻)。


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