永遠に「もっといい人がいるかもしれない」の繰り返し。出会いへの“強欲さ”を増殖させるアプリに疲弊する人たち

もはや恋人探しの定番となった「マッチングアプリ」。しかし、いつでもどこでも使える利便性や、選択肢の拡大には、ネガティブな一面も。マッチングアプリ疲れを実感する人たちに話を聞いた。

職業や趣味など、自分の属性を登録して恋人を探す「マッチングアプリ」。コロナ禍を経てさらに普及が進み、マッチングアプリはもはや出会いのスタンダードに。しかし、便利で選択肢が多いことは、必ずしもポジティブな影響ばかりではない。独身たちは今、アプリ疲れを実感している。

 

「もっといい人がいるんじゃないか」と思い、デートにすら踏み切れない

「メッセージのやり取りはうまくいったんだけど、実際会ってみたら想像と全然違う人が来てさ……」
 
こう話すのは、筆者の知人・A子さん(29歳)だ。彼女は複数のマッチングアプリを使い、3人の男性と会ったものの、まだ交際には至っていない。
 
「1人いいなって思う人もいたけど、話が弾まなくて。デートに誘ってくれたんだけど、どうしようかな。他にもっといい人がいそうだし……」
 
結局、A子さんは次回のデートを断ることにした。実はその日、彼女には別の男性から初回デートの申し入れがあったのだ。そちらを優先することにしたのだが……。
 
「前日に『仕事が入った』ってドタキャンされて。彼はアプリの人気メンバーだったし、私と同じように別のアポを優先したんだと思う」
 
A子さんは冷静に分析しながらも、肩を落とす。
 
「アプリは便利だけど疲れるんだよね。それにもっといい人がいるんじゃないかって思って、なかなかデートや交際に踏み切れなくなる」
 

マッチングアプリでの“定型文のようなやりとり”に疲弊する男女多数

A子さんのようにアプリ疲れを経験している人は多い。
 
AI恋活婚活アプリを運営するバチェラーデートが、アプリ経験のある男女434人に対し「マッチングアプリ疲れを感じた経験の有無」を聞いたところ、女性の91.6%(男性89.2%)が「ある」と回答。さらに、マッチングアプリを利用する中で最も「疲れ」や「ストレス」を感じるときは、男女ともに「メッセージのやりとり」が1位だった(調査実施日:2022年11月18日〜21日)。
 
メッセージのやりとりに疲れを感じた人の理由のトップは、男女共に「ありきたりなやりとりばかりしているとき」。具体的には「同じ自己紹介の繰り返し、同じ質問ばかりで疲れる」という声があり、定型文のようなやりとりに疲弊していることが分かる。
 
そもそもアプリでの出会いは、“1度も会ったことのない男女”がマッチングするところから始まるわけだが、互いを“知る”段階で感じるギャップがそのままアプリ疲れにつながっているのだ。
 

“アプリ婚”を成功させるコツは、自分に合ったアプリを探せるか否か

上記の調査結果やA子さんを見ていると、マッチングアプリで出会い、恋人になって結婚するのはとても難しいことに思えてしまう。
 
しかし、婚活実態調査2022(リクルートブライダル総研)によると、婚活サービスを使って結婚した人の割合は15.1%。2021年に結婚した人の中では、マッチングアプリなどのネットサービスを利用した割合が最も高いと言われている。
 
アプリ疲れをする人と、アプリで結婚する人は何が違うのか。
 
マッチングアプリを通じて出会った女性と結婚した男性・裕也さん(32歳)に話を聞いた。
 
「30歳になってそろそろ結婚できる相手と出会いたいなと思って。そのタイミングでアプリを始めてマッチングしたのが今の妻です」
 
裕也さんが使ったマッチングアプリは、「趣味」でつながるタイプのもの。さらにアプリで会った女性は、今の奥さんだけ、というから驚きだ。
 
「学生時代から長く付き合っていた彼女と別れてから恋愛はご無沙汰だったので、次に付き合う彼女と結婚したいなと思っていたんです。妻のアプリのプロフィールの趣味が、映画やペット好きなど、4つほど当てはまっていたので、いいなと思って会いました」
 
裕也さんは、会うまでのメッセージのやりとりが面倒だと感じることはなかったという。
 
「そもそもアプリは1つしか使ってなかったし、比較のしようがなかったので(笑)」
 
2023年時点、マッチングアプリの種類は200に上るといわれている。そんな中、裕也さんは自分に合ったアプリを早々に見つけ出し、初めて会った女性とそのままゴールインを果たしたのだ。
 

「いい人がいるよ!」という“お膳立て”なしで出会いを探す時代へ

男女の出会いは、昭和、平成、令和と大きく変革している。
 
筆者は、A子さんと裕也さんの話を聞きながら、お見合いで結婚した祖母の話を思い出していた。
 
「今の若い子たちは自分で結婚相手を探さんといかんから大変やねぇ」
 
祖母が生きた時代は、親が結婚相手を決めるお見合いが主流だった。あらかじめ結婚というゴールを見据え、親にお膳立てしてもらった上で、 安心して相手に会うことができたのだ。
 
それが、昭和後期~平成にかけて自由恋愛に移行。合コンや職場恋愛など、自由とはいえ自身が所属しているコミュニティで出会い、結婚するケースが増えた。そこには必ず、2人をよく知る“共通の友人”が存在する。
 
「いい人がいるよ!」
 
こんな親や友人の“お墨付き”で、出会いがスタートしていたのだ。
 
そして現在。インターネットの普及とともに、マッチングアプリが爆発的に流行した。200種類のアプリの中から自分に合ったものを選ぶことができるようになり、出会いの場は大きく広がったが、そこに“お墨付き”をくれる人はいない。
 

「もっといい人がいる」という強欲さを増殖させるマッチングアプリ

本来、選択肢が増えることいいことだ。しかし反面、これがA子さんのようにアプリ疲れを生み出す最大の原因になっているのではないか。
 
「もっといい人がいるかもしれない」
 
何十万人の会員の中から、自分の好みの相手を選ぶことのできるマッチングアプリは、効率的で自由な恋愛を生み出している。しかし一方で、「もっといい人がいる」という強欲さをどんどん増殖させているようにも思える。
 
「今の若い子たちは結婚相手を探さんといかんから大変やねぇ」
 
当初、祖母のこの言葉に「結婚相手を選べないなんてかわいそう」なんて思っていた。
 
でも、もし祖母のように、あらかじめ“お見合い”で結婚することが決められた時代に生きていたら……。多くのときめきはないかもしれないけれど、それはそれで幸せを手に入れていたのかもしれない、と思う。
 
「選べない」という不自由さは、実は幸せなのかもしれない。
 
別のアプリを使って婚活を再開したA子さんを見ながら、そんなことを考えた。
 

※回答者のコメントは原文ママ


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