「アイデンティティを失った」夫婦同姓制度の不利益は“諸手続き”だけではないと31歳女性が感じるワケ

「夫婦同姓」であることに感じる不利益は、手続きの手間や周囲からの目線だけではなく、個々のアイデンティティ、実家の墓継承問題など多岐にわたる。さらに、夫婦同姓制度によって本当に苦労したのは「離婚後だった」という経験談も。夫婦別姓を望むアラサー女性の本音を聞いた。


結婚するためには慣れ親しんだ姓を捨てなければいけない―。
 
現在の日本では、婚姻時に夫婦のどちらかが姓を変更しなければならず、同性・別姓を選択する自由はない。平成28年度の厚生労働省人口動態統計における「婚姻に関する統計」によると、女性の96%が結婚を機に夫の姓に変更している。しかし、結婚後も仕事を続ける女性にとって、姓を変えることで生じるデメリットも多い。
 
今回は、結婚歴のある3人のアラサー女性に、姓を変えて感じたリアルな本音を聞いた。
 

マイナカードにクレカ……遅れると大変な入籍後の手続き

「入籍後に一番大変だったのは、免許証やマイナンバーカード・クレジットカードの手続き。平日に有休をとって全ての作業を1日で終わらせました」
 
こう語るのは、ナミさん(30歳/会社員)だ。彼女は入籍してすぐ上記の手続きを終わらせた。
 
「入籍後の手続きが面倒なことは、既婚の姉から聞いていて。姉は、手続きの段取りを考えていなくて、かなり時間を食ったみたいです。さらに普段使っていなかった旧姓のクレジットカードの住所変更を忘れていて、カードの年会費の引き落とされていたことに気づかなかった……と嘆いていました」
 
ナミさんは、姉からのアドバイスもあり、入籍後の手続きの段取りを決めて、効率よく全ての作業を完了させたという。彼女にとってこの手続きは「結婚した」と実感する1つの儀式だったようだ。
 
「手続きは大変だったけれど、私は夫と同じ名字になれてうれしかったです。『夫婦になった』と実感できるから。会社でも夫の姓を使っています」
 

「アイデンティティを失った」実家の墓が途絶えることに不安も

ナミさんのように「結婚し、好きな人と同じ名字にうれしい」と感じる女性がいる一方、こんな意見もある。
 
「名字を変えて、アイデンティティを失った気がします」
 
こう語るのは、ヒロミさん(31歳/職業非公開)だ。
 
「私の旧姓は全国的にも珍しい姓で。自分も気に入っていたし、実家が田舎だったので、姓を見るだけで『〇〇さんところの娘さん?』と言われることも。窮屈なこともあったけれど、仕事では得することも多かった」
 
ヒロミさんは妹と2人姉妹。どこにいっても「かっこいい姓だね」と言われたという。
 
「姓が一種のアイデンティティみたいなのもあったかも。でも私が結婚した相手は、どこにでもある姓だったんです。私は自分の姓をずっと使い続けたかったので、『私の姓にする?』と彼に言ってみたけれど、『え?なんで? 普通奥さんが変えるんじゃないの?』と当然のように言われました。彼も長男だったし……。

結局、私が姓を変えました。今も職場では旧姓を使っていますが、届け出が必要だったり、給与の振り込みで少し混乱があったりと、何かと大変で」
 
泣く泣く慣れ親しんだ姓を変えたヒロミさんだが、現在、ある不安を抱えているという。
 
「私の実家は四国ですが、今は私も妹も都心で働いています。実家にはひいおじいちゃんから続く『〇〇(旧姓)家の墓』があるんです。妹が結婚したら、姓は途絶える。お墓はどうなるんだろうって。最近、妹は『私が姓を継いだほうがいいのかな。でも彼氏になんて言おう……』と相談してきます。もし夫婦別姓制度があったなら、私か妹は別姓を選択していたと思います」
 

本当に大変だったのは、離婚したとき

ナミさんも、ヒロミさんも夫婦別姓について、「選択肢としてあったらいい」と語る。そんな中「夫婦別姓は絶対に認めるべき」と強く語るアラサー女性もいる。
 
「結婚より大変だったのは離婚したときだったので」
 
こう語るのはアヤノさん(30歳/会社員)だ。彼女は25歳で結婚し、28歳で離婚。現在は彼氏と同居しているが、法律婚の予定はない。
 
「結婚当時、アルバイトをしていた会社で、元夫の姓を名乗っていました。旧姓を使用したかったけど、当時は認められていなかったんです。私が結婚していることを知らない社員も多くて。離婚して姓が変わったときに『結婚したの? おめでとう』と言われて。かなり嫌な思いをしました」
 
アヤノさんは、現在の彼とは今後も「事実婚関係でいい」と語る。
 
ここまで、3人の働くアラサー女性が感じた夫婦別姓に対する本音を紹介した。それぞれ考え方は違えど、夫婦別姓に対し、反対意見が3人から出ることはなかった。
 

夫婦別姓になると「家族が崩壊」するのか?

実際、選択的夫婦別姓制度の導入について、肯定的な意見は多い。
 
弁護士ドットコムが2021年8月11~16日の期間、1524人を対象に実施した「選択的夫婦別姓制度に関する意識調査」によると、選択的夫婦別姓制度の導入について、「賛成」と答えたのは44.2%。「どちらかといえば賛成」(19.1%)と合わせると、「賛成派」は63.3%になった。
しかし、夫婦同姓を強制する現在の民法や戸籍法の規定が「違憲である」と争われた裁判において、最高裁判所大法廷は、平成27年の判決、さらに令和3年の決定にて、夫婦同姓制度は憲法に違反していないと判断。その理由の1つには、「夫婦別姓になると家族の一体感がなくなる」といったものも挙げられた。 

ところで、ここでいう“家族の一体感”とはなんだろうか。
 
同調査の「夫婦別姓反対派」の回答者からは、「別姓が嫌で結婚しないなら、その程度の愛だということ。そういう人は結婚すべきではない(50代男性)」「家族としての絆や同一姓となる責任感を持つ意味で必要(50代男性)」という声が上がっていた。
 
ところが、2021年の人口動態統計によれば、婚姻件数は50万1138組に対し、離婚件数は18万4384組。およそ2.7組に1組の夫婦が離婚している事実は、夫婦同姓による“一体感”があっても変わらないのだ。

それに、選択的夫婦別姓制度が導入されることで、別姓という選択肢は増えるものの、同姓の選択肢がなくなるわけではない。「同性も、別姓も選べる」それが当たり前になることは、個々のアイデンティティを尊重することにつながるのではないだろうか。


※回答者のコメントは原文ママ


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【関連リンク】
弁護士ドットコム

【参考】
法務省
平成28年度 人口動態統計特殊報告 「婚姻に関する統計」の概況
令和3年 人口動態統計(確定数)の概況
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