美しい音楽や川のせせらぎなど、心地よい音を聞いたとき「耳障りの良い音だ」と言うことがあります。この言葉の使い方は正しいのでしょうか? 今回は「耳障り」の正しい意味や使い方を解説します。
・「耳障り」の意味とは
・「耳障り」と「耳触り」の違い
・現在では「耳触り」の表現は一般的?
・半数が「耳障りがいい」の表現に違和感を抱く
・「耳障りがいい」の言い換え表現
「耳障り」の意味とは
まずは「耳障り」という言葉の意味を国語辞典で確認してみます。
みみざわり
【耳触り】 聞いた時の感じ。
【耳障り】 聞いて不愉快またはうるさく感ずるさま。
『大辞林 4.0』(三省堂)
「みみざわり」という言葉には、2通りの表記の仕方があり、それぞれで意味が異なります。
冒頭の例のように「耳障りが良い」という場合の「耳障り」は「聞いた感じ」という意味ですので、「耳触り」と表記します。
一方で、「耳障り」と表記する場合は、この言葉自体に不快であるという意味が含まれていますので、「隣の工事の音が耳障りだ」のように使い、「耳障りが良い」とは言いません。
「耳障り」と「耳触り」の違い
ところで、最近では「耳触り」と表記して、「耳触りが良い」とする表現も一般的になってきているようですが、本来「耳障り」という場合には「耳障り」の表記と意味しかありませんでした。
2010年に出版された『日本語 語感の辞典』(岩波書店)には、「耳障り」と「耳触り」について次のような説明があります。
耳障り 近年この語の音から「耳触り」の意と誤解して、「耳ざわりのいいことば」のように「耳あたり」の意で使う俗な用法が広がっている。
耳触り 近年「耳障り」の音を「耳触り」と誤解し、「耳で聞いたときの感じ」の意で使い出してすっかり広まった俗語。
「耳触り」の用法は、「耳障り」の誤用から生まれた俗語であるとされています。
「(身体の一部)+さわり・ざわり」という言葉には、他にも「目ざわり」や「手ざわり」「肌ざわり」などがあります。
これらのうち、「目ざわり」は「あいつの存在が目ざわりだ」などと使うように、「耳障り」と同様、「障り」の漢字を使い不快さを表す言葉です。
一方で、「手ざわり」や「肌ざわり」などは「触り」と表記し、単純に感じたことという意味で使われていますので、「耳障り」も、こうした用法と混同して「耳触り」と使われるようになったと考えられます。
現在では「耳触り」の表現は一般的?
本来は誤用であった「耳触り(が良い)」という言葉ですが、現在では随分浸透しているようです。
さまざまな辞書で「耳触り」という言葉がどのように扱われているか確認してみると次のようになりました。
・「耳障り」のみ採録
『明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店・2010年)
『旺文社 国語辞典 第十一版』(旺文社・2013年)
『日本語の正しい表記と用語の辞典 第三版』(講談社・2013年)
・「耳障り」「耳触り」いずれも採録
『大辞泉 第二版』(小学館・2012年)
『学研 現代国語辞典 改訂第六版 小型版』(学研プラス・2017年)
※「耳触り」については俗語として採録。
『広辞苑 第七版』(岩波書店・2018年)
『岩波国語辞典 第八版』(岩波書店・2019年)
※「耳触り」については俗用と説明。
『新明解国語辞典 第八版 机上版』(三省堂・2021年)
これはあくまで一部の例ですので、一概には言えませんが、10年ほど前に比べると、近年「耳触り」の用法は一般的になり、多くの辞書にも採録されるようになっているようです。
半数が「耳障りがいい」の表現に違和感を抱く
一方で、毎日新聞の校閲センターが運営するWebページ「毎日ことば」に掲載された2018年の記事によると、「『耳ざわりがよい』という表現をどう感じる」か、という質問に対して、「おかしい」と答えた人が68.4%、「問題ない」とした人が31.6%と、まだ多くの人が違和感を持つことが示されています。
以前に比べると一般的になりつつある「耳触り」の用法は、現在では誤りとは言えなくなってきていますが、とはいえ、いまだ一定の人がおかしな表現だと感じていることも頭に置いて、慎重に使った方がよいでしょう。
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「耳障りがいい」の類語・言い換え表現
「耳障り」は、本来は「耳障り」と表記し、音への不快感を表す言葉でしたが、近年では「耳で感じること」という意味で「耳触り(が良い)」といった表現も使われるようになってきました。
ただ、まだ「耳触り」の用法に抵抗感のある人も一定数いることにも配慮し、「耳当たり」や、「聞いていて心地よい」などの表現に言い換えるのも良いかもしれません。
言葉は時代とともに移り変わっていきますので、「耳障り」の用法も今後さらに変わっていく可能性は十分にあります。その時々に合わせた適切な言葉を選べるようになりたいものです。