ハロウィーンを楽しむため梨泰院(イテウォン)に集まった人々が、狭い路地で密集状態になり圧死するという悲劇が起きたのだ。死亡156人、負傷者191人を出した大事故だった(2022年11月4日午前現在)。
政府は11月5日までを国家哀悼期間に指定。全国各地で予定されていたハロウィーン関連および、大規模イベントは自粛を求められ急きょ中止となった。
日ごと明らかになる当日の現場状況と行政の怠慢。これは「事前に防げた事故ではなかったのか」、今、韓国市民はこの事故の“真実”を追い求めている。
韓国の中の外国、梨泰院
「梨泰院」という街の名は、ドラマ『梨泰院クラス』の世界的ヒットによって、韓国を訪れたことのない人々にも知られるようになった。実際にどんなところなのか。
もともと付近に米軍基地があった(京畿道平澤に移転済み)ため、自然とアメリカ人向けの商店が集まったことから、“外国人の街”として知られるようになった。韓国で最初のモスクもこの場所にある。
梨泰院駅を降りるとすぐに、このエリアが「ソウルの中の外国」と言われる所以を実感できるだろう。さまざまな言語の看板が並ぶ多国籍感ある街が広がっており、エスニックレストランや土産物店、バー、クラブなどが大通りだけでなく、急傾斜の坂道の両側や狭い路地裏にまで軒を連ねている。
しかし、華やかな印象のあるこのエリアに負のイメージを持つ層もいる。遊興施設がしばしば麻薬取締り捜査の対象となることや、 LGBTQ向けのクラブやバーが多く集まるためだ。梨泰院のとあるゲイバーで新型コロナウイルスの集団感染が発生した際は、性的少数者に対する誹謗中傷が飛び交い社会問題となった。また、今回の梨泰院群集事故直後、ネット上では麻薬関連の事故という憶測が独り歩きをし、フェイクニュースが拡散されている。
梨泰院はもともと異文化を楽しむ街だ。よっていつしか、ハロウィーンといえば梨泰院となり、この時期には多くの若者が集まるようになった。ハロウィーンを楽しむ様子は『梨泰院クラス』でも描かれていたので、仮装をしたにぎやかな群集の様子に記憶のある人もいるだろう。
そして、屋外でのマスク着用義務が全面解除された2022年のハロウィーンは、コロナ禍以降抑圧された数年を過ごしてきた若者にとっては、久々の一大イベントであった。梨泰院駅の利用者は2018、2019年には10万人程度だったが、2022年は13万人を超えていたという。ただ、今年の梨泰院のハロウィーンは、特定の主催者が開催したイベントではない。そのため、今回の事故の責任の所在が争点ともなっている。