アントニオ猪木さんが罹患していた全身性アミロイドーシス
プロレスラーで、実業家、政治家としても活躍されていたアントニオ猪木さんが、2022年10月1日、全身性トランスサイレチンアミロイドーシスによる心不全のために79歳で亡くなりました。
一般に「全身性アミロイドーシス」と呼ばれるものです。この病気の原因と症状、予防法の有無について、解説したいと思います。
アミロイドーシスとは
私たちの体のおよそ60%は水分でできており、その水分を除いた残りのおよそ半分(全体の15~20%)がタンパク質です。タンパク質は、筋肉や各種臓器を構成するだけでなく、酵素、ホルモン、免疫物質などとしても機能し、私たちの体のさまざまな働きを調整する重要な役割も担っています。
多くのタンパク質は、水に溶ける状態で体内に存在していますが、遺伝子変異によって健常な人とは違う構造のタンパク質ができてしまったり、何らかの理由で過剰に産生あるいは蓄積されると、体内に沈着することがあります。特に、「アミロイド」と呼ばれる水に溶けない繊維状の異常なタンパク質が体の臓器にたまることで、さまざまな機能障害を生じる病気の総称が、「アミロイドーシス」です。
アミロイドーシスのうち、ある特定の臓器にアミロイドが沈着することで障害が起こるものは「限局性アミロイドーシス」と呼ばれます。その代表例がアルツハイマー病で、アミロイドβと呼ばれる特殊なタンパク質が脳内に蓄積することで、神経細胞の変性・脱落を進行させ、認知症を引き起こします。
一方、アミロイドーシスのうち、全身のさまざまな臓器にアミロイドが沈着して全身に障害が起こるのが「全身性アミロイドーシス」です。
全身性アミロイドーシスは高齢の男性に多い
近年の高齢化に伴い、全身性アミロイドーシスを発症する人は増加傾向にあります。生まれつきの遺伝的異常があったとしても、すぐに発症することはなく、アミロイドタンパク質が時間をかけて徐々に体内にたまってから障害をきたします。つまり、ある程度の年齢に達したときに発症する仕組みになっているという点で、加齢が発症のリスク因子になるのです。
また、まだ理由は明らかになっていませんが、男性の方がかかりやすいようです。一部のケースでは、男性ホルモンが関係している可能性が考えられています。
症状は複雑……初期症状だけで判明は難しい
全身性アミロイドーシスの症状は、患者さんごとにさまざまです。原因がさまざまで、全身のあらゆる臓器に障害が発生し得る病気だからです。そのため、異常を感じて病院を受診したとしても、すぐに全身性アミロイドーシスであると分かることは稀です。通院を繰り返して検査を進める中で、全身性アミロイドーシスを疑うことができるようになります。
肝移植による治療や薬による治療法があるほか、遺伝子治療や免疫療法の研究も進んでいます。
予防は困難だが、早期発見・早期治療が重要
もしかかってしまったら……と心配になる人も多いでしょうが、決定的な予防法はありませんので、早期発見・早期治療が重要です。
逆に言えば、難病ではありますが、アミロイドが沈着することで起きるという点がはっきり分かっているため、治療も可能です。他の病気も同じですが、おかしいなと感じたら、手遅れにならないうちに早めに専門家に診てもらうことが大切でしょう。
最後になりますが、さまざまな方面で活躍したアントニオ猪木さんのご冥福をお祈りします。
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