大麻取締法改正で大麻使用が解禁される? 議論の現状と可能性

【薬学博士・麻薬研究者が解説】2022年9月29日に開催された厚生労働省の厚生科学審議会・医薬品医療機器制度部会で、大麻取締法の改正に向けた議論のとりまとめが行われました。しかし「医療用の大麻使用が解禁される」というわけではありません。分かりやすく解説します。

大麻取締法の改正議論……ついに大麻解禁か?

医療用大麻のイメージ
海外で認められている大麻関連の医薬品。国内の法改正議論の現状は?

2022年9月29日に開催された厚生労働省の厚生科学審議会・医薬品医療機器制度部会の第4回大麻規制検討小委員会で、大麻取締法の改正に向けた議論のとりまとめが行われ、「大麻を使った薬の輸入や製造、使用が可能になるよう法改正をすべき」とする骨子案が示されました。
 

このニュースを受けて、「医療用の大麻使用が解禁される」と思った人がいるかもしれませんが、話はそれほど単純ではありません。大麻のあり方について、何がどう変わる可能性があるのか、正しく理解していただくために、詳しく解説します。
 

なぜ大麻は医療用に認められていなかったのか

多くの人がご存じのように、大麻は、社会的に悪影響を及ぼす恐れのある薬物の一種として、日本では大麻取締法で規制されてきました。そもそも「大麻」とは何かについては、大麻取締法の第一条にこう定義されています。
 

第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。
 


また、第四条には、大麻の取り扱いに関する禁止事項がこう記されています。
 

第四条 何人も次に掲げる行為をしてはならない。
一 大麻を輸入し、又は輸出すること(大麻研究者が、厚生労働大臣の許可を受けて、大麻を輸入し、又は輸出する場合を除く。)。
二 大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。
三 大麻から製造された医薬品の施用を受けること。
四 医事若しくは薬事又は自然科学に関する記事を掲載する医薬関係者等(医薬関係者又は自然科学に関する研究に従事する者をいう。以下この号において同じ。)向けの新聞又は雑誌により行う場合その他主として医薬関係者等を対象として行う場合のほか、大麻に関する広告を行うこと。
2 前項第一号の規定による大麻の輸入又は輸出の許可を受けようとする大麻研究者は、厚生労働省令で定めるところにより、その研究に従事する施設の所在地の都道府県知事を経由して厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない。


つまり、これまでは、大麻草あるいはそれを加工して作られた製品を、医療目的で使用することは全面的に禁止されていたのです。乱用されると社会的な悪影響が懸念されるため、同様に法的規制を受けている麻薬や覚醒剤が、本来は医薬品であり、医療目的の使用が認められているのとは大きく異なっていました。
 

なぜ、麻薬や覚醒剤が医療用に認められているのに、大麻は認められていなかったのかについては、歴史的な背景が関係しています。アヘン類やモルヒネは、古来から眠り薬や痛み止めとして用いられてきた後で、乱用による有害性が問題となりました。
 

覚醒剤は、麻黄という漢方薬から発見されたエフェドリンという成分を改良するかたちで作り出されたもので、当初は咳止め薬として販売されましたが、やはり乱用による有害性が後で判明したために規制されることとなりました。
 

それに対して、特に日本では、大麻草は、繊維や食用に利用される農作物としての価値が主に認められていたもので、薬用としての価値はあまり認められていませんでした。そのため、世界的に大麻を規制する流れの中で日本に大麻取締法が制定されることになったときに、大麻が医療に必要とされる可能性はほとんど考慮されなかったのです。
 

海外で認められている大麻関連の医薬品の例

日本では、大麻に関連した研究はあまり行われてきませんでしたが、近年海外では研究が進み、大麻に関連した医薬品がいくつか登場してきました。
 

たとえば、「ドロナビノール」は、大麻の成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)を化学合成したものです。このドロナビノールをごま油に溶解して、丸いゼラチン製カプセルに充填(じゅうてん)した製品は「マリノール」の名で、1985年にアメリカ食品医薬品局(FDA)によって医薬品として承認されました。抗がん薬の使用に伴う吐き気や嘔吐、エイズ患者における体重減少を伴った食欲不振などに用いられます。
 

「ナビロン(販売名:セサメット)」は、THCに類似した合成化合物で、もともとアメリカ製薬大手のイーライリリー社によって開発され、1985年にFDAより認可されましたが、商業的な理由から1989年に認可取り消しとなりました。その後、Valeant Pharmaceuticals社が2004年に権利を買い取り、2006年に再びFDAより販売承認を得ました。現在、米国とカナダ、欧州各国で認められており、ドロナビノールと同じく、抗がん薬による吐き気と嘔吐、エイズ患者の食欲不振や体重減少に用いられます。
 

「ナビキシモルス」は、イギリスのGWファーマシューティカルズ社が、特定品種の大麻草を隔離栽培し、含有成分が一定のマリファナ抽出物を製造する技術を確立し、そこから得られたマリファナ抽出物を製品化したもので、大麻に含まれるTHCとカンナビジオール(CBD)をおよそ1:1(等量)含んでいます。
 

これを、さらに加工して、小型スプレーに封入し、口腔内に噴射すれば一定量のカンナビノイドを摂取できるようにした製剤が、「サティベックス(販売名)」です。2005年には多発性硬化症患者の神経因性疼痛(とうつう)と痙縮(けいしゅく)を緩和するために用いる医薬品としてカナダで販売承認されました。また、2010年には、イギリスで、多発性硬化症による痙縮の治療薬として承認され、その後欧州各国で認可・発売されました。イギリスを除く欧州での販売名は、「アルミラール」です。
 

また、2015年7月には、アメリカで、CBDを有効成分とする「エピディオレックス(商品名)」が、希少疾病用医薬品の指定を受けました。希少疾患とは、患者数が非常に少ない疾患のことで、通常の手続きでは医薬品開発が困難なので、患者を救う見込みがある場合は特別ルールが適用されることがあります。
 

エピディオレックスが対象とした希少疾患は、乳幼児期に発症する2種類の難治性てんかん(レノックス・ガストー症候群とドラベ症候群)で、限られた人数での臨床試験でありながら有効性が認められたことから、2018年6月にFDAによって正式に承認されました。
 

内在性カンナビノイドと医療的応用の可能性

実は、近年の研究から、私たちの体の中には、大麻に含まれる成分と似たような物質が存在していることが明らかになり、それらは「内在性カンナビノイド」と呼ばれ、多くの生体機能や病気の発症に関係していることが分かってきました。したがって、今後さらに関連した化合物の有用性を研究すれば、上述した以外にも、さまざまな医療目的に応用できる新薬が見出させる可能性があると思われます。
 

今回の厚生労働省の委員会が「大麻を使った薬の輸入や製造、使用が可能になるよう法改正をすべき」という提案をしたのも、このような流れを受けた対応であったということです。
 

ただし、現時点では提言がなされただけで、最終的に法改正されるかどうかはまだ分かりません。また、その通り法改正されたとしても、あくまで国の承認を受けた研究機関の研究計画だけが認められるものであり、一般の人が自由に大麻を使用できるようになるのではありませんから、誤解してはいけません。


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