国内でも感染者を確認……「サル痘」は新たな脅威となるか?

「サル痘」が急激に感染拡大する中、日本国内でも2022年7月26日に初の感染者が確認されました。WHOは緊急事態を宣言しましたが、新型コロナに続く脅威になるのでしょうか? 実はサル痘には、すでに有効なワクチンも治療薬もある点が大きく異なります。

「サル痘」の国内感染にどう向き合えばいいか

サル痘とは
世界で感染が急増しているサル痘。国内でも感染者が確認されました

「サル痘(さるとう)」の感染者が世界的に急増しており、日本でも2022年7月26日に、初の感染者が確認されたと報道されています。新型コロナウイルスの感染が収束しない中で、また新たな脅威が出現したかと不安になる方が多いかと思いますが、過度に心配する必要はないようです。
 

なぜなら、既に使用可能になっている天然痘のワクチンが有効であるうえ、海外で天然痘の治療薬として使用されている一部の薬がサル痘にも使えると認められているからです。その薬はまだ日本では未承認ですが、厚生労働省が例外的に使用できる仕組みを作りましたので、万が一感染したとしても治療薬の投与が可能です。ワクチンも治療薬もない状況で爆発的に感染が広がった新型コロナとは状況が異なります。
 

多くの方に冷静に対応していただけるよう、サル痘に対応できるワクチンと治療薬の現状について解説します。
 

天然痘との共通点が多い「サル痘」…天然痘ワクチンが有効

天然痘は、「天然痘ウイルス」を病原体とする感染症で、致死率が30%と極めて高く、最も多くの人類の命を奪った感染症として有名です。しかし19世紀末にイギリスの医師ジェンナーが天然痘ワクチンの「種痘」を開発し、これが世界中に普及したことで、1980年に根絶されました。
 

一方、サル痘(monkeypox)は、天然痘ウイルスと類似した「サル痘ウイルス」に感染することで発症します。もともと研究用に飼育されていたサルの間で天然痘に似た病気の集団感染が起きたことがきっかけで名付けられたのですが、げっ歯類や哺乳動物にも感染します。最近発見された病気ではなく、1950年代にはアフリカで見つかっており、すでに一定の対策が講じられてきた病気です。人への感染が初めて確認されたのは1970年のことです。

 

サル痘ウイルスに感染すると発熱、頭痛、リンパ節腫脹などの症状が数日間続き、遅れて発疹が現れます。致死率は天然痘に比べると低いですが、小児や抵抗力の弱い人は要注意です。
 

天然痘とサル痘は、別の感染症ですが類似点が多いことから、既に開発済みの天然痘のワクチンが使えるのではないかと考えられ、以前より検討されてきた結果、すでに有効性が確認されています。今回、世界的な感染拡大が発覚した時点で、「天然痘ワクチンが有効である」といち早く公表されたのは、このためです。
 

サル痘予防に、天然痘ワクチンの予防接種は必要か

天然痘の症例が最後に確認されたのは1977年で、WHOによる根絶宣言(1980年)以降、予防接種は行われていません。しかし、天然痘ワクチンの効果が持続するのは約10年ですので、実は、現在世界中のほとんどの人が天然痘ウイルスに対する免疫をもっていません。
 

根絶したとされる天然痘ウイルスですが、この地球上には存在しています。研究目的などでそのサンプルが保存されているからです。テロリストが生物兵器として悪用するリスクなども考え、テロ対策の一環として、日本を含めた世界各国では、天然痘ワクチンがいつでも使えるように常備してきました。なので、今回のサル痘の世界的流行が伝えられたときにも、各国は慌てずに済んだというわけです。
 

ならば、これから全員が予防接種を受ければいいのではないかと思われるかもしれませんが、まだその必要はないでしょう。ワクチン接種にはリスクも伴いますので、定期予防接種化は時期尚早と思われます。
 

サル痘にも有効な天然痘治療薬

天然痘ワクチンの定期接種化はまだ現実的ではありませんから、万が一発症したときのことを考えると、治療薬を用意しておくのが最善の策と思われます。
 

上述したように、天然痘とサル痘には類似点があるため、天然痘の治療薬がサル痘にも有用ではないかと考えられ、欧米で検討されてきました。具体的には、すでに天然痘治療薬として認められている2種類の抗ウイルス薬、「テコビリマット」と「ブリンシドフォビル」が注目されています。
 

テコビリマットは、実際にサル痘患者に投与され、その有効性が確認されました。また、短期間の投与で、特に注意しなければならない副作用もみられないようですので、今のところ、サル痘に対する治療薬としては最も有望でしょう。日本では未承認なので本来は使用できませんが、今回、厚生労働省が「特定臨床研究」という方法で使用可能とする仕組みを作りました。一般的な治療ではなく、治療法を研究する一環として、指定した薬を限られた患者に投与することを認めるという考えです。今後日本国内でサル痘感染者に治療薬が投与される場合には、テコビリマットが選ばれることになるでしょう。
 

もう1つの候補薬、ブリンシドフォビルは、動物実験で有効性が確認されたのちに、実際の患者さんにも投与されて検討されています。しかし、海外における臨床研究報告によると、投与開始後に肝機能障害が認められたケースが多いようですので、安全性の面で心配が残ります。今のところ、日本国内でブリンシドフォビルを使用する動きはないようです。
 

手洗い・アルコール消毒を続けて、冷静に予防・対策を

ここまでワクチンと万が一の場合の治療薬について解説しましたが、不安に思いすぎることはありません。サル痘ウイルスには、ここ数年私たちが対策をしてきた新型コロナウイルスと同じく、エタノール消毒が有効なウイルスです。アルコール(エタノール)を使うと、エンベロープが溶け、ウイルスを簡単に壊すことができるのです。
 

新型コロナ感染症対策として行ってきた「アルコール(エタノール)消毒」を引き続き励行し、サル痘も上手に感染予防していきましょう。


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