vol.10 誰でも彼でも「クン」付けしちゃう人の謎
某男性向けファッション雑誌の創刊にあたって行われた編集会議中、とあるオジサンが突如、腕を組みながら発した一言。
考察
友だちでも彼氏でも息子でも舎弟でもないのに、誰でも彼でも「クン」付けしちゃうのはいかがなものか?
……とは言え、例えば「(嵐の)大野クン」「(KAT-TUNの)亀梨クン」「風間(俊介)クン」……と、(主に)ジャニーズアイドルを「〜クン」呼びしている女子高生を「年上なんだからクンじゃなくてサンだろ!」と目くじら立てて叱りつけるほど、筆者もやぼな人間ではない。もはや「大野クン」の「クン」は、「ゆうこりん(=小倉優子)」の「りん」と同様、姓名とセットにした「アダ名」として成立しているからである。
アラフォーあたりのオネエさんがかわいらしい童顔系のアスリートを「(羽生)ユズ(ル)クン」だとか「大谷(翔平)クン」だとかと呼び、はしゃいでいるのもご愛嬌(あいきょう)だ。
しかし、これらとは明らかにニュアンスが異なった、LINEですらつながっていない“ほぼ”……もしくは“まったくの”他人をつかまえて、気持ち悪い「クン」付けを多用するヒトがいる。
とくにマスコミ業界やアパレル業界の中高年層に多い印象がある。最近はめっきり減少傾向にあるが、絶滅はしていない。
もう15年も前の話──とある中堅出版社から男性ファッション誌を創刊することが決定し、その編集会議に筆者もスタッフの1人として参加した。そこには、フリーランスの編集プロデューサーだったかコーディネーターだったか……要は何をやってんだかよく分からない(当時)40〜45歳くらいのTさんという男性が同席していた。
Tさんは、とにかく態度が尊大で、編集長の隣の席で編集長より偉そうに両足を机の下に放り出し、腕を組んで座っていた。モスグリーンのコーデュロイ・ジャケットの肘には楕円形のパッチが貼ってあった。そして、「創刊号の表紙は誰にしようか」って議題になったとき、そのTさんはおもむろにこう提案した。
「木村クンとか呼んじゃおっか!?」
「木村クン」とは、もちろん「キムタク」──木村拓哉のことだ。確か、あのころはまだSMAPも解散しておらず、その人気と勢いは現在の比じゃなかったと記憶する。そりゃあ、呼べたら大金星! 出版界内外でも話題沸騰間違いなしである……が、そんな大物、ホントに呼べるのか?
恐る恐る筆者は、Tさんに「キムタクと面識とか……あるんですか?」と聞いてみる。すると、
「いや、ないけど」
……と、ピシャリ返された。「〜けど」で終わったからには続きがあって、じゃあせめてジャニーズ事務所に強力なコネでもあるのか……と期待していたら、別段そうでもないらしい。その後、Tさんは「オグリクン(=小栗旬)」やら「ヒロシクン(=藤原ヒロシ)」やら「ヒカルちゃん(=宇多田ヒカル)」やら「テルマチャン(=青山テルマ)」やら……著名人の名を次々と挙げては、「そんなヒト呼べるんですか?」「それは編集者の仕事でしょ」というやりとりを繰り返し、散々場を乱すだけ乱して去っていき、次の編集会議からは2度とその姿を見ることはなかった。
業界内での精通感をアピールすることによって、周囲に対しマウントを取る戦略なのかもしれないが、やはり面識のないヒトのことを呼ぶときは「さん」付けで(※Tさんとは1度しか面識がないので、今回の原稿では一応「さん」付けにしておいたw)。当事者がいない場合は、時短を図った合理性重視ってことで呼び捨てでもかまわないのではないか?
いったい、この手のヒトたちはどういう基準で「クン」付けと「さん」付けの線引きをしているのだろう? 自分より年上か年下(あるいはタメ年)か……ってとこか? いや、Tさんだったら松平健のことですら「松平クン」と呼ぶ気がしてならない。(※文中登場人物は原則として敬称略)
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