メッセンジャーアプリやSNSで見かける話題のネットスラングから、大人の常識には当てはめられない日本語の新たな用法、もはや「?」な若者言葉まで。ネット社会にあふれる「シン・日本語」をプロライター歴30年の山田ゴメスが考察する。
vol.9 JR職員がやらかしてしまった、とある炎上アナウンス
つい最近、JR埼京線の新宿駅係員が利用客に呼びかけたアナウンスが、ネット上でプチ炎上状態に。その経緯や原因解明に関しては、9月8日に放送された朝の情報バラエティ番組『めざまし8』(フジテレビ系)でも特集された。
実際のアナウンス
「防犯カメラは多く設置しておりますが、◯◯は多くいらっしゃいます。◯◯をされたくないお客さまは、うしろの車両をぜひご利用ください」
考察
「◯◯」に入るのは、ズバリ!「痴漢」である。そして、ネット上で多く指摘されているのは「痴漢をされたくないお客さま」といったくだりに対する違和感。
「痴漢されたいお客さまなんておるんかいっ!?」
「そんなんおるわけないやろ!」
……って理屈だろう。
『めざまし8』の取材を受けたJR東日本は「適切な案内ではなかった」と謝罪。同番組のMCを務める俳優の谷原章介(50)は、
「意図はわかるんですけどね。定型文みたいなのがあると思うんですけれども、この方は混んでいるところを誘導する際、臨機応変にアナウンスしたのかなと思うんですけどね。ちょっとアナウンス力を磨き直していただきたいですね」
……と、コメント。また、ゲストとして出演していた、とあるNPO法人理事長の某氏は、
「鉄道会社が防犯カメラを設置したり、女性専用車を設けたり、一生懸命やっているのは事実。でもこれだとやっぱり(痴漢の撲滅を?)諦めているように聞こえますね」
……と、皮肉混じりのちょっとした苦言を呈していた。
なにかかたちに残る正式な声明や文書ではない単なる駅構内アナウンスであり、すでにJR側もお詫びはしているので、いまさら蒸し返すほどの案件でもない……とは思う。しかし、この手のケアレスミスは今回のケースにかぎらず、わりと我々の日常生活においてもウッカリやらかしてしまいがちだったりもするので、後学のために……ってことで、とりあえずは批評とお手本めいたものを、ここで示しておきたい。
まず、槍玉に挙げられている「痴漢をされたくないお客さま」のくだりだが、「じゃあ、どうすりゃいいの?」と問われれば……コイツが案外むずかしい。
「痴漢を避けたいお客さまは〜」にしたところでニュアンスが多少婉曲的になっただけで、「痴漢を避けたくないお客さまなんておるんかいっ!?」といった根本的な問題は、なんら解決されていない。となれば「痴漢を避けるためにも〜」と、より無機的な表現で“逃げる”のがベスト……とまではいかなくとも、ベターなのではなかろうか。
ただ、筆者はその前にあった「痴漢は多くいらっしゃいます」というくだりのほうが、むしろ深刻なのでは……と考える。(※ちなみに、東スポWebは、同案件の後追い記事で「いらっしいます」を「おらっしゃいます」と誤記していた。まがりなりにも「新聞」を発行している報道機関としては、あるまじきミステイクであるw)
丁寧な言葉遣いを過剰に意識するあまり、なんでもかんでも……ましてや人の道理に背いた外道中の外道である痴漢にまで尊敬語を使ってしまう日本人ならではの悪癖は、日々細心の注意をはらいながら矯正するべきだろう。
したがって、冒頭アナウンスの正解は、
「防犯カメラは多く設置しておりますが、痴漢はもっと多くいる可能性もあります。痴漢被害をより確実に避けるためにも、うしろの車両をぜひご利用ください」
……ってことなのである。
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