「ポカリスエット リターナブル瓶 250ml」が新登場し、入手困難になるほど話題となっています。瓶は爽やかな水色で、清涼感がありますが、この「水色」はなぜ喉が潤うイメージを想起しやすいのでしょうか? 色彩学の観点から考察します。
「水は青い」という概念は、平安時代から存在していた
水道の蛇口から出てくる水は無色透明ですが、水の色といえば、「青」を思い浮かべるのが一般的ではないでしょうか。
JIS慣用色名から、水のまつわる色名を見ていきましょう。「水の青」に由来する「水色」という色名は、少し緑みを帯びた薄い青を指します。「水色」は、平安時代から見られる色名であり、日本では古くから「水は青い」というイメージが存在していました。
「マリンブルー(marine blue)」は、やや緑みがかった濃い青を表す色名です。直訳すると「海の青」なので、青く澄んだ海の色を映した色名だと言われますが、英語のmarineには海軍や海兵隊の意味もあるため、水兵や水夫などが伝統的に着用していた制服の色に由来するという説もあります。
英語には「シーグリーン(sea green)」という、海の色に由来する色名もあります。 日本人の感覚でいえば、海の色は青ですが、シーグリーンは強い黄緑を指します。
次に、世界中で用いられているパントン(Pantone)の色見本から、水にちなんだ色名を見ていきましょう。ディープウォーターは濃い青、アイスウォーターは淡い青、アクアシーは緑みを帯びた青というように、「水=青い」というイメージには普遍性があるようです。
これらの青の中で、飲料水のイメージに近いのは、「水色」「アイスウォーター」などの淡い青です。淡い青は清潔感があり、すっきり、さっぱりなどのイメージがあります。
本来は無色透明な水が「青」や「水色」に見えるのはなぜ?
ところで、水自体は無色透明なのに、海や川はどうして青く見えるのでしょうか。その理由は「光の波長」にあります。
イギリスの物理学者アイザック・ニュートンが行ったプリズムの実験で知られるように、太陽の白色光は虹のように多くの色に分解されます。人間の目は、380ナノメートルから780ナノメートルの範囲にある波長を、色として認識します。太陽の光には短波長の紫から順番に、青、緑、黄色、オレンジ、長波長の赤というように、虹のグラデーションが含まれています。
■水の分子は、太陽の光に含まれる“赤色”を吸収する
海が青く見えるのは、水の分子が、太陽の光に含まれる「長波長の赤い光」を吸収することが原因の1つです。水中を進む太陽の白色光は、水深が深くなるにつれて、水色の光になっていきます。海底で反射した光も赤い光を吸収するので、水面から出てきた透過光は、ますます青みが増します。
水の分子の吸収スペクトルによって、水が青に見える現象は、屋内でも確認することができます。料理などに用いる水は少量なので、無色透明に見えますが、お風呂の湯船に入れた水はわずかに青みを帯びています。
■水面に空の色が反射する
海が青く見えるのは、空の色の反射も関連しています。海水面は空の光を反射するため、晴天の日は青さが増し、曇りの日は灰色に見えます。朝焼けや夕焼けの空の色が反射すると、海水面はオレンジ色に染まります。
ちなみに空が青く見えるのは、微粒子による光の散乱が原因。 大気中には、光の波長よりも小さいサイズの粒子が浮遊しています。短波長の青い光はより強く散乱されるため、青い光が私たちの目に入り、空が青く見えるのです。これをレイリー散乱と呼びます。
長波長の赤い光は散乱されにくいので、遠くまで届きます。朝日や夕日は地表に対して水平の角度をとるため、通過する大気の層が長くなり、私たちの目に届くのは赤い光となります。
■水中でも散乱が起きる
海水中にもさまざまな微粒子があるため、海水中に差し込んだ光も散乱され、青みを呈します。水がきれいな状態であるほど、青い光がより強く散乱され、鮮やかな青に見えます。
このように、水中を透過する光、水面を反射する光、そして散乱という現象が相まって、水は青く見えるわけです。
ガラス瓶のポカリスエットは、“水の見え方”に近いため清涼感がある
色には光が物体に当たり反射された結果見える「物体色」と、光が物体を通過することで見える「透過色」の2つの種類があります。■販売当初のポカリスエットの青は「物体色」。清涼感がありつつ“人工的”なイメージも
ポカリスエットは、1980年に245ml缶で発売されました。不透明な缶にプリントされた青に光が当たると、短波長の青い光を反射し、その他の波長の光は物体に吸収されます。このように物体に当たって反射した光のことを「反射光」と呼び、反射した結果見える色は、「物体色」と呼ばれます。
発売当時、缶のパッケージは「オイル缶みたい」と言われることもあったそうです。飲料業界では、青はタブー色とされていたことも一因ですが、同じような青でも、透過色と物体色では印象が大きく異なります。
■リターナブル瓶で見える青色は「透過色」。水の見え方に近く、よりさっぱりしたイメージに
今回のリターナブル瓶は青いガラス製で、厚みがあります。青いガラスに光を通すと、短波長の青い光を通して、その他の波長を吸収するため、光は青く見えます。このように透明な物体を通した光のことを「透過光」、その結果見える色のことを「透過色」と呼びます。
同じような青でも、缶にプリントされた青は人工的な印象を与えるのに対して、ガラスの青は水の見え方に近いので、クリアでさっぱりしたイメージになります。
■リターナブル瓶は“容積”が見えることも、清らかさを感じるポイントに
色の見え方については、心理学の分野でも研究が行われています。ドイツの心理学者、ダーヴィット・カッツは、 色の見え方の印象はその色の現れ方に影響を受けると考え、10種類の色の現象的分類を提唱しました。背後が透けて見えるガラス瓶に入った、色のついた水の色の見え方を「空間色(容積色)」と呼びます。
ポカリスエットの青いリターナブル瓶は、その容積が清らかな水で満たされているように感じられます。三次元の空間の容量がはっきりと見えるので、水分補給のイメージにつながるのではないでしょうか。
松本英恵プロフィール
東商カラーコーディネーター検定1級、文部科学省認定色彩検定1級取得。パーソナルカラー、カラーマーケティング、色彩心理、カラーセラピー、ラッキーカラー(色占い)などの知見を活用し、カラーコンサルティングを行う。
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