その統計調査は『工業統計調査』と呼ばれ、日本の製造業について幅広く把握するとともに、調査結果は日本の経済構造全体を把握する統計(経済構造統計)の作成にも用いられています。さらに来年度からは全産業に対象を拡大して、『経済構造実態調査』の中で新たに調査が実施されることになるそうです 。
なんだか難しそう?と感じた人もいるかもしれませんが、この工業統計調査をじっくり眺めてみると、日本のモノづくり事情に関する「面白い発見」や「素朴な疑問」が続々と出てきます。そこで、経済産業省の荒川さんに質問をしてみました。
荒川 洋(あらかわ ひろし)さん
経済産業省 調査統計グループ 経済解析室 参事官補佐
現在、国内の製造業や第3次産業の動向に関する経済指標の作成・分析を担当。過去には地方自治体の産業振興に関する業務を経験、また経済産業省の地域産業政策など、地域産業に関する業務を中心に従事。
経済産業省 調査統計グループ 経済解析室 参事官補佐
現在、国内の製造業や第3次産業の動向に関する経済指標の作成・分析を担当。過去には地方自治体の産業振興に関する業務を経験、また経済産業省の地域産業政策など、地域産業に関する業務を中心に従事。
47都道府県別に従業員数1位の「製造業」を色分けしてみた
まず注目したのは、都道府県で発展する製造業のなかでもっとも「多くの従業員を抱える産業は何か?」ということ。従業員数第1位の製造業を産業別に色分けすると下の図のようになります。都道府県別の従業員が多い産業を調べて、第1位の産業で色を塗った結果が以下になります。

本州には一部の都道府県を除いて同じ色(グレー)が多い一方で、東北、四国、九州地方はバラバラの色になっていますが、この本州に固まっているように見える産業は「自動車部分品・附属品製造業」です。日本のモノづくりといえば、まず自動車を思い浮かべる人は多いですよね。
自動車産業が盛んな愛知県、でも実は“それだけ”じゃない
これについて経済産業省の荒川さんに聞いてみると、「日本は自動車産業が非常に盛んです。トヨタ自動車の本社が愛知県にあることはよく知られていますが、そのほかの大手自動車メーカーも本社や創業地が関東を中心に本州にあることが、(グレーに塗られた)自動車関連産業が本州に集積されているひとつの要因といえます。だけど各地域ともに“それだけ”ではありません。例えば愛知県を中心とした中部地方は、自動車産業以外に航空宇宙産業も盛んなんですよ。こうやって地域の特性を生かしながら、地方自治体などを中心に戦略的に産業振興を進めているんです」。
九州は、実は半導体関連産業がすごい「シリコンアイランド」
「ほかの地域の例も挙げてみましょう。1970年代から半導体産業の集積が進む九州は、『シリコンアイランド』とも呼ばれていますが、その強みを生かして、最近では熊本に世界大手の半導体メーカーTSMC社の進出が決まるなど、半導体産業の集積の動きが続いています」(荒川さん)そこで上でご紹介した日本地図を見ると、熊本と大分の従業員数1位の産業は「集積回路製造業」となっています。また、熊本県の集積回路製造業については同県内の製造業で比較した平均年収が高い産業ランキングで1位。従業員数も多く、平均年収も高い、注力産業であることが統計データからも見てとれます。今後も九州には半導体関連の産業集積が進むでしょう。
都道府県別に従業員数も多く、平均年収も高い産業をピックアップ!
最後に、熊本県の集積回路製造業のように、各都道府県で従業員数が多く、平均年収も高い産業を探してみると、各都道府県の注力産業が分かるのではないか?ということで、調べてみた結果をご紹介します。各都道府県で従業員数が5位以内、かつ平均年収も5位以内の産業を抽出すると、24の都道府県と産業のセットが見つかりました。
お住まいの都道府県の注力産業は見つかりましたか? 今回は工業統計調査から、各都道府県のモノづくりの実態を把握するため、簡易なランキングデータを作成しました。
なお、「工業統計調査で集計している従業者数には、正社員やパート・アルバイト以外に、有給役員が含まれるなど、一般的にイメージされる従業員の給与とは異なることに注意が必要です。また、現金給与額総額には、従業者数の集計には含まれていない臨時雇用者の給与額が入るなど、従業者数と現金給与総額の対象範囲にズレがありますので、工業統計調査を使って計算した平均年収では、それらの点にも留意して見る必要があります」(荒川さん)とのこと。
今後も工業統計調査ほか、さまざまなオープンデータや統計データを見つけては、専門家など詳しい人に話を聞いてみた!という記事を公開予定です。気になるデータや話を聞きたい人がいれば、ぜひオールアバウトまでお問い合わせください。