同性婚の法制化は「国民感情」が鍵? 今後の裁判の行方は

3月17日に同性のカップルが結婚できないことは「違憲」だとする歴史的な判決が下された「結婚の自由をすべての人に」訴訟。同性婚の法制化は「国民感情」が鍵? 今後の裁判のゆくえについて解説。

今後の動きは?

歴史的な判決が下されましたが、残念ながら、これですぐに同性婚が法制化されるわけではありません。

札幌地裁の判決後も、加藤官房長官は「(同性婚を認めていないことは)憲法に反するものとは考えていない」と述べ、国会では菅首相も「他にも同様の裁判が続いていると認識しており、状況を見守る」と述べるなど、国は同性婚の法制化を進める気配はありません。

札幌地裁の判決を受けて、原告側は「国会に速やかな立法措置を促す必要がある」として、控訴。今後、札幌高等裁判所で訴訟が継続することになります。

他の東京、大阪、名古屋、福岡地裁での訴訟も続いており、今年や来年以降、順次判決が下されていくでしょう。

結婚の平等の実現を求める「Marriage For All Japan」代表理事で弁護士の寺原真希子さんは、札幌地裁判決が他の地裁判決にどう影響するかという点について、「各裁判所は独立しているため、他地裁の判決に拘束されません」と話します。

「しかし、もし(同性婚を認めていない現状の法律に対し)『合憲』という判決を下すとしたら、札幌地裁判決を超える理屈を書かなければいけません。そういった意味で、他地裁の判決でも、しっかりと中身に踏み込んだ判決が書かれる可能性は高まったと考えています」

新型コロナウイルスの影響もあり、各地裁でいつ判決が出るかは不明です。また、原告・被告どちらが負けても控訴することが予想されるため、その後の高裁判決、そして最終的には最高裁判所で判断が下されることになるでしょう。寺原さんによると、もともとは2023年頃の最高裁判決を目指して訴訟が進められているといいます。

早急な法整備を

最高裁で違憲判決が出れば、もちろん国会は同性婚を法制化しなければいけません。しかし、それよりも前に国会が動き、法律を制定すれば、訴訟の本来の目的が達成されるため、取り下げることも考えられます。

同性婚を認めるためには「憲法を変えるべきだ」という意見もありますが、札幌判決でも指摘されている通り、憲法24条は同性婚を禁止しておらず、民法を改正することで同性婚は実現します。

憲法を変えた方が“わかりやすい”という考え方もあるでしょう。しかし、日本では1947年に日本国憲法が施行されてから、憲法が改正されたことは一度もありません。

改正には国民投票で有効投票の過半数の賛成が必要です。同性婚は「マイノリティ」の人権問題です。マイノリティの権利を、多数派が明らかに有利な「多数決」で決めるのは本当に正しいことなのでしょうか。

本当に当事者がいま直面している困難を解決したいと思うのであれば、憲法の改正ではなく今すぐに法律を改正して同性婚を認めるべきでしょう。

パートナーシップ法でいい?

2021年4月時点で、100以上の自治体で「パートナーシップ制度」が導入されています。これは自治体が性的マイノリティのカップルを認証する制度ですが、法的な効果はありません。

そこで、婚姻とは別に、同性カップルのパートナーシップを保障する法律を作るのはどうかという考え方もあります。確かに諸外国でも同性婚より前に「登録パートナーシップ法」などを整備する国もあります。しかし、法律の中身をみてみると、必ずしも婚姻と全く同じ内容にはならないことも。つまり、同性カップルは、結婚とは別の「二級婚」として扱われてしまう可能性があるのです。

将来的に法律上異性カップルでも同性カップルでも使えるような、婚姻とは異なる枠組みで、パートナーシップを保障する法律があってもいいかもしれません。しかし、同性カップルのみを婚姻とは別の法律に閉じ込めるのは「分離すれども平等」の考え方であり、疑問が残ります。

前述した通り、札幌地裁判決でも、もし同性カップルと異性カップルを異なる扱いをする場合は「どうしても必要な場合だけ」と釘を指しています。やはり婚姻に関する法律を改正することで同性婚を認めるべきでしょう。

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「世論」の重要性

寺原さんは「同性婚の法制化は必ず実現します。私たちの活動は、それを一日でも早く実現させるためのものです」と語ります。

東京地裁で訴訟を戦っていた原告の一人が、2021年1月に亡くなりました。寺原さんは「今まさに困難に直面する同性カップルに対して、法的な保障が必要だ」と話します。

本来、裁判所は世論や多数派の認識にかかわらず、人権を保障する判断が求められていますが、寺原さんによると、裁判官は「国民感情」を重視する側面があるといいます。

そのため、「最高裁判事が実感として『これはもう同性婚を認めないとまずい』と思うくらいに世論が高まっていることが、最高裁で憲法違反の判決を勝ち取るためには必要です」と、どれだけ同性婚法制化を求める声を広げられるかが鍵だと寺原さんは指摘します。

冒頭で、世論は同性婚に賛成の割合が高いと述べました。しかし、最高裁で違憲判決が下されるためにも、そして国会で同性婚が法制化されるためにも、同性婚への賛成だけでなく、“法制化すべきだ”という声を司法や立法の場に届けることが重要です。

「応援ももちろん嬉しいし重要ですが、ぜひ“行動”を起こしてほしい」と寺原さんは語ります。

各地の「結婚の自由をすべての人に」訴訟を傍聴することで、裁判官に注目度を伝えることができるでしょう。Marriage For All Japanに寄付をすることで、継続的な活動の支援にもつながります。

2021年は衆議院議員選挙も予定されています。同性婚に賛成の議員に票が集まれば、法制化の可能性が高まるでしょう。郵便番号を入力するだけで、自分が投票できる選挙区の候補者が、同性婚や選択的夫婦別姓に賛成かどうかを調べられるWebサイトも公開されています。地元の国会議員の事務所に電話やメール、手紙を送るなど、法制化を求めていることをアピールすることも重要です。

訴訟につけられた名前は「同性婚訴訟」ではなく、「結婚の自由をすべての人に訴訟」です。結婚をするかしないか、もしするとしたら、いつ・誰とするのか。そうした平等な選択肢、「結婚の平等」「結婚の自由」を求めて訴訟が行われています。ぜひ今後の訴訟と法整備の動きに注目してみてください。

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