夫や子ども、兄弟姉妹など近しい家族以外と交流することなく、社会的に孤立している状態にある「ひきこもり主婦」が、近年、増加傾向にあるといいます。他者とのコミュニケーションの煩わしさは理解できますが、なぜ彼女たちは、自分の家という殻に固執し、閉じこもるのでしょうか。

20代にして悟った、「外に出ると疲れる……」

今回、残念ながら本人にお会いすることができずメールでの取材となったのは、長野県にお住まいの刈谷佑衣子さん(36歳・仮名)。佑衣子さんは、同じ会社で働いていたご主人と27歳で結婚。それと同時に仕事を辞めてから、ほぼ家から出ることなく過ごしているといいます。

「学生時代まで、友達は普通にいたんです。学校帰りに地元で人気のあった「いむらや」のラーメンを食べに行ったり、文化祭のあとはみんなでファミレスに行って騒いだり。社会人になった頃かな。いわゆる子どもっぽい人づきあいがひと段落したら、なんていうか……ラクになったんですよね。気分が」

それまでは、周囲から浮かないように、いじめられないように、そんな不安から、友達に“合わせる”ため必死になっていたという佑衣子さん。会社に入って味わった「仕事をしていれば文句を言われない」環境に、ほっとしたといいます。

「夫と私が働いていた会社は、社長の意向もあり、いわゆる会社主催の飲み会や社員旅行、懇親会といった、人づきあいのスキルが必要になるイベントがゼロだったんです。出社してタイムカードを押したら無言で席へ。お昼はお弁当を作っていき、本を読みながらひとりで黙々と食べていました。もちろん、夕刻は定時退社。誰かの相手をほぼしなくてよかったので、すごく幸せでした。そのおかげで、土日も家から出ない日が多くなっちゃって」

そんな佑衣子さんがご主人と出会ったのは、人事異動があり、他県の営業所にいたご主人が佑衣子さんの支店に配属になった日のこと。ご主人も佑衣子さん同様に寡黙なタイプで、昼休みに不格好なおにぎりをほおばりながら難しい古書を読みはじめた姿を見て、興味を引かれたといいます。

「夫も、人間と付き合うくらいなら、その時間で本を読んでいたい、そういう人間だったんですよね。しばらくして地元の図書館でよく会うようになって、お互いに惹かれはじめて、気付いたら結婚を意識していました」
 

結婚を機に、ひきこもりに拍車が

「私は結婚を機に退職したのですが、それ以降、外に出掛けることは、月に1度あるかないかです。子どもがひとりいるのですが、妊娠中には検診に行くのすらイヤでイヤで仕方がなかったくらい。産院もできるだけ近所の病院を選んで、入院はぎりぎりまでせず、出産間際に行くことを選択しました。家で、お気に入りのソファに寝そべって本を読んだり、夫や子どものためにごはんを作ったり、テレビを見ながらぼ~っとする毎日は、まさに天国です」

買い物は生協やスーパーの宅配サービスを利用。服はすべて通信販売で購入。読みたい本があればネットでダウンロード……と、家から出ない生活で困ることはひとつもないといいます。

「本当なら、ママ友を作って、わいわい楽しむのが母として正しいんだろうな、って。そう思うこともあります。でも、無理して疲れてしまって、夫や子どもに迷惑をかけるのはイヤなんです。夫も、私が家にいて、家事や育児を完璧にすることを望んでくれているし、家に帰ってきた子どもをどんなときでも優しく迎えてあげることができる。なので、私たち家族にとって、今の状況はwin-winなんですよ。

参観日や運動会など、子どもの学校のイベントでどうしても外に出なくちゃいけない日は、仕方ないので出かけますが……私には、夫と子どもがいるこの家が、世界のすべてでOK。できることなら、一生、このまま引きこもっていたいです!」

さらに佑衣子さんは続けました。

「そもそも、専業主婦になりたいって言っている人は、多かれ少なかれ、他者に煩わされたくないという“引きこもり願望”を持っているんじゃないですか?『親が引きこもりだなんて、子どもが可哀想』とか言ってくる人もいますが、子どもにも引きこもりを強いているわけじゃないし、愛情をしっかり与えているので、とてもまっすぐに育っています。家族以外の誰かと関わりを持つべきだなんて……自分勝手な偏見を押し付けるのは、本当にやめてほしいです」

なるほど、佑衣子さんのように「自分のペースで生きていきたい」という人にとって、引きこもれる環境は最高なものなのかもしれません。これもひとつの個性として、温かく見守る環境をつくること。いざというときに、社会的サポートが行えるようにしておくこと。これが、今後の社会には必要となることでしょう。