増加する夫婦間のDV……それでも、逃げられない妻たち

近年、夫が妻を殺したり殺人未遂を犯したりする事件が目立っている。日本の夫婦関係に何かとんでもないことが起こっているのかと考えさせられてしまう。夫から妻へのDV、暴行においては毎年、増加の一途をたどっている。平成27年には検挙数だけで3500件を超えた。(内閣府男女共同参画局サイトより)

DV夫からはとにかく逃げろ

近年、夫が妻を殺したり殺人未遂を犯したりする事件が目立っている。8月28日、札幌で49歳の夫が23歳の妻を車の中で殴り続けて殺した。妻は妊娠8ヶ月だった。29日には福岡県で車内で口論になって車から降りた妻(45歳)を執拗に轢いた53歳の夫が殺人未遂で逮捕された。妻は重傷だという。さらに30日には沖縄県で52歳の夫が酔って、妻をアパート3階の自宅から突き落として殺人未遂で逮捕される。

3日連続であちこちでこういう重大事件が起こっているのを見ると、夏の終わり……長く続いていた暑さのせいでみんないらいらしているのか、あるいは日本の夫婦関係に何かとんでもないことが起こっているのかと考えさせられてしまう。

夫から妻へのDVは、殺人件数こそ100件前後で推移しているが、暴行においては毎年、増加の一途をたどっている。平成27年には検挙数だけで3500件を超えた。(内閣府男女共同参画局サイトより)
 

逃げたほうがいいとわかっていながら逃げられない

つい最近も知人であるミナさん(48歳)が夫からのDVで苦しんでいることを知った。結婚して17年、ひとり息子は15歳になる。50歳の夫は小さな会社を経営しているが、このところ業績はあまりよくないらしい。ただ、夫の暴力は今に始まったことではない……。

「最初の暴力は結婚してすぐでした。彼に頼まれたことを私が忘れたことに腹を立てて平手打ちが飛んできた。びっくりして泣き出すと、彼は平謝り。それから子どもが生まれたあたりまではまったく暴力はなかったんです」
 
ところが子どもを育てている渦中では、いろいろなことがあった。子どもが泣き出すと夫はイライラしてモノに当たる。ドアをバシンと大きな音を立てて開け閉めしたり、ときにはコップを壁にぶつけたこともある。

「夜泣きする子どもを抱いて外に出て、うろうろしていたこともありました」

子どもにばかり手をかけている妻にいらついたのか、酔って帰って授乳している妻を無理やり犯したこともある。そのときばかりは情けなくて泣いたとミナさんはつぶやく。

ミナさんも働いていたため、子どもが1歳になったころ保育園に預けた。夫の暴力がまたひどくなったのは、子どもが小学校に上がったころからだ。

野球が好きな夫は、子どもにグローブを買い与え、休みの日にはよくキャッチボールをしていた。帰ってきて一緒にお風呂に入ってくれればいいものを、自分だけさっさと風呂に入る。汗だくの子が次に風呂に入るのをミナさんが手伝おうとすると夫が爆発する。

「ひとりで入れろ。ビール!」

冷たいビールが遅くなると平手打ちが飛んでくる。子どもが入浴していて目の前にいないから、ときには髪の毛を引っ張られて床に倒されたこともあった。

その後は暴力が日常的に

それでもまだ、そのころは一息つくと夫は謝ったものだった。

「オレはおまえを本気で愛してる」というのが夫の口癖だった。ただ、最近はもはや暴力が日常的になっている。何が彼の暴力スイッチを押すのか、ミナさんにもわからない。

息子もすでに気づいているが、夫は息子の前で暴力はふるわない。息子が部活でいないときなどに夫は突然、暴れ始める。

「私も働いているので顔はやめてと言っているのに、スイッチが入ると彼自身、自分が何をしているのかわからなくなるみたい」

階段から落ちて肩を脱臼したこともあるし、前歯は何度折ったことか。彼女自身、これが暴行だとわかっているし刑事事件にもなると知っている。それでも彼女は逃げようとしないのだ。

以前、取材したことのある女性は夫によって家に軟禁状態だった。逃げる意欲があっても逃げられなかった。だがミナさんは会社員である。助けを求めようと思えばいくらでも場はある。息子とふたりで逃げ出すことはできるはずだ。あるいは暴行を受け続けて、逃げる意欲を失っているのだろうか。

「逃げたほうがいいのはわかってる。でも息子から父親を奪う決意がつかないんです。あの人を支えられるのは私だけだとも思う。私ががんばれば、夫はいずれ自分が何をしてきたかきっと気づいてくれるはずなんです」

自分を傷つける夫をそこまでかばう理由がわからない。共依存になっているのかもしれない。

夫婦のことは夫婦にしかわからないという。だが、これだけは言える。DVを我慢するのは子どものためにもよくない。子どもの心は傷つき、蝕まれていく。そして暴力は体だけではなく、ミナさんの心の奥深くまで傷つけるのだ。

暴力があったらすぐに逃げるべきだ。警察や地域の女性センター、福祉事務所など相談窓口はたくさんある。配偶者の暴力を容認して幸せになった人などいない。

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