懐かしの車体カラーで人気の115系が引退へ…
第3セクターのしなの鉄道は、2026年度までに新型車両を順次導入し、現在運行中である、懐かしの車体カラーで人気の115系電車は、一般車両に関して全車引退させると、このほど発表した。1997年の会社発足以来、JR東日本より譲渡された旧国鉄形の115系と、すでに引退した169系のみで運行されていたしなの鉄道にとっては初の新型車両である。
新型車両はJR東日本のE129系を基本とした車両を採用
新型車両は、しなの鉄道独自の設計によるものではない。設計費などのコスト削減、すでに運用実績があり、初期不良などのリスク削減を理由に、JR東日本の新潟地区で走っているE129系を基本としたsustina(サスティナ)と呼ばれるオールステンレス車両(総合車両製作所が製造)が採用される。
現在22編成59両ある115系のうち、観光列車「ろくもん」用の3両をのぞいた56両が置き換えの対象となり、新型車両は26編成52両(すべて2両編成)導入予定だ。もっとも、巨額の費用が発生するので、一気に置き換えるのではなく2019年度から2026年度までの8年間かけての更新となる。総事業費は約110億円、車両購入費については、国が1/3、長野県1/6、沿線市町1/6、しなの鉄道1/3という分担である。
新型車両は平日は通勤用、土休日は観光用の有料ライナーに
新型車両の先陣を切って、2020年春に、まずは、ライナー用車両3編成6両を導入する。2015年3月まで走っていた有料ライナーが復活するためで、平日は主に沿線から長野市中心部への通勤客が使うこととなりそうだ。首都圏の西武鉄道S-TRAINや京王ライナー、東武東上線TJライナーでお馴染となったクロスシートとロングシート変換車両となる。
また、通勤用のみならず、土休日には観光用の有料ライナーとしても走る予定とのこと。沿線に、軽井沢、小諸、上田、戸倉上山田温泉など観光地が目白押しであるだけに観光客には喜ばれるであろう。最初にライナー車両を導入するのは、収益性を考慮してのこと、と説明している。
一般車両は、JR東日本のE129系を踏襲した、ロングシート主体のセミクロスシート車(1両の半分はオールロングシート、連結部に近い半分のみセミクロスシート)となる予定だ。また、これまで観光列車「ろくもん」をのぞいてトイレは使用できなかったが、車両基地に汚物処理施設を新設することになったため、新型車両には車イス対応洋式トイレが各編成に1カ所設置される。
「115系の動く博物館」として人気があったが…引退は時代の流れ
しなの鉄道は開業20周年を記念して、115系電車のうち4編成を「懐かしの車体カラー」として塗り替えた。編成毎に、初代長野色(1989~92年にかけてJR東日本の長野エリアで使用。当時はJR信越本線の一部だったしなの鉄道の路線でも走っていた)、湘南色(115系のオリジナル塗装)、横須賀色(JR中央本線でも使われていた塗装)、「コカコーラ」レッドカラー(1987~90年にかけてJR信越本線で走っていた広告電車)の4通りがあり、各車両の運行予定表を公式サイトに発表し、鉄道ファンに喜ばれている。「115系の動く博物館」として人気があるので、115系は永遠に走るものと思っていた人もいるかもしれない。
しかし、しなの鉄道の115系は、ほとんどが1978年製であり、製造後40年を経過している。老朽化が進み、近年故障など不具合も増加している。本家のJRでも115系の廃車が相次ぎ、部品の調達は困難となっているのが現状だ。安全・安定輸送を確保するためには、早期の車両更新が必要となっていたのである。また、使用電力量は新車導入により半減するし、車両検修費などの維持管理コストも削減される。快適な車内などによりサービス向上ともなるので、115系の引退は時代の流れであろう。
とはいえ、115系の全車引退までは8年ある。しばらくは懐かしの車両を楽しむことができるであろう。観光列車「ろくもん」の動向とともに、しなの鉄道の車両には目が離せない状況が続きそうである。
取材協力、資料提供=しなの鉄道