大混戦の末に決めた、悲願のダービー初制覇を振り返る

第85代ダービー馬ワグネリアン
優勝レイをかけられたワグネリアン。重賞2勝目で、2015年に生まれた競走馬6955頭の頂点に立った(筆者撮影)

今年で85回目を迎えた日本ダービー。すべてのホースマンが最も勝ちたいレースとしてその名を掲げるレースで、ファンの注目度も段違い。今年は晴天に恵まれた影響もあってか、レース直前の15時の時点での東京競馬場への入場人員はなんと11万8475名。最終的には昨年よりも多い12万6767名がこの一戦を見届けにやってきました。
 

そんな白熱したレースを制したのは5番人気のワグネリアン。鞍上の福永祐一はこれが19回目の挑戦で悲願のダービー制覇を達成しました。そんな今年の日本ダービーを振り返ってみましょう。
 

“似たもの同士”のワグネリアンと福永祐一

あくまで筆者の見解ですが、ワグネリアンと福永祐一は馬と人でありながらそのキャラクターはとてもよく似ていました。

ワグネリアンは父に牡馬3冠を達成したディープインパクト、祖母に重賞6勝を挙げた活躍馬のブロードアピールがいるという超良血馬で、昨年7月にデビューして勝利を収めると、そこから野路菊S、東京スポーツ杯2歳Sと無傷の3連勝。特に東京スポーツ杯2歳Sは直線でムチすら入れないで後続を置き去りにする圧勝を見せたため、一時は「世代最強」の呼び声さえありました。

パドック時のワグネリアン
パドックでのワグネリアン。伏し目がちで内側をトボトボと歩くのが特徴的(筆者撮影)

ところが、年明け初戦で迎えた弥生賞でダノンプレミアムに完敗を喫すると、周囲の評価は急降下。ダノンプレミアムが不在だった皐月賞こそ1番人気に支持はされましたが、そのオッズは3.5倍と、2番人気ステルヴィオの3.7倍と接戦で、確たる人気馬というわけではありませんでした。案の定、皐月賞でワグネリアンは全くいいところがなく7着に惨敗。今回のダービーは単勝5番人気にまで落としていました。
 

そして鞍上の福永祐一も、通算983勝を挙げ「天才」と称された元騎手の福永洋一を父に持つ騎手界のサラブレッド。父が全盛期に遭遇した落馬事故が原因で騎手生活を閉ざされたこともあり、デビュー前から福永祐一は大変に注目を集め、ルーキーイヤーの1996年には新人歴代3位(当時)となる53勝を挙げる大活躍をした際も、大きな話題になりました。
 

その2年後にはダービー初騎乗を決め、翌1999年にはプリモディーネで桜花賞を制してG1レース初勝利を挙げるなど順風満帆な騎手生活を送りましたが、牡馬とタッグを組んでのG1レースで不振を極めていました。そのため口の悪い競馬ファンからは「G1で牡馬に乗った時の福永は消し」とさえ言われるようになってしまいました。
 

デビュー3年目で初騎乗を果たしたダービーはこれまで18回乗って未勝利。2012年には1番人気に支持されたワールドエースに騎乗し、いよいよチャンス到来かと思わせましたが、直線で伸び切れずに4着に敗れています。

騎手紹介時の福永祐一
ダービー騎乗騎手紹介時の福永祐一。手を振って観客に応えます(筆者撮影)


「デビュー直後は注目されながらも、一度つまずいてから人気を落とす」という点でこのコンビは似ているように思えてなりません。
 

新人騎手のように乗って、無心で掴んだ栄光

さて、そんな似たものコンビの両者でしたが、戦前の下馬評は決して芳しいものではありませんでした。
 

ワグネリアンは東京スポーツ杯2歳Sの勝ちっぷりを見ても直線の広い東京コースに戻るのはプラス材料に思われ、巻き返しのチャンスはあるかと思われましたが、ダービーの3日前に行われた枠順発表でその声も消えてしまいました。
 

ワグネリアンの枠順は8枠17番。近年のダービーは内枠に入ったほうが有利で、最後に8枠に入った馬が勝ったのは2001年のジャングルポケットまでさかのぼらないとなりません。加えてワグネリアンは後方で脚を溜めて直線で一気にスパートをかけるというレーススタイルが最も得意な馬。展開に左右されがちな脚質なので、届かないのでは?と危惧されることになりました。
 

そして鞍上の福永祐一もこの手の差し馬に乗るとレース運びが消極的になることで知られていて、特にG1レースではあと一歩届かないというレースを繰り返してきました。それだけにダービーで5番人気にとどまったのもどこか頷けます。
 

しかし、いざレースが始まるとワグネリアンは5番手を追走。キャリアで初めてと言っていいほど前目からレースを進めました。
 

ダービー1周目の様子
第1コーナーを回った様子。この時点でワグネリアンは早くも仕掛けていきました(筆者撮影)


レース後に福永祐一は「(調教師や関係者が)目一杯仕上げてくれていたので、悔いのないレースをしようと思い、掛かるかもしれなかったが恐れずに乗った」と語りましたが、後続に差されることを恐れずに思い切ったレースをすることに注力したと言えるでしょう。
 

皐月賞馬エポカドーロが逃げるという意外な展開で進んだ馬群は1000mを1分8で通過。8レース目に行われたダービーと同距離の青嵐賞1000m通過タイムが59秒6だったことを考えると、ややスローな流れに。これで前が残りやすい展開になりましたが、直線に入るとワグネリアンの鞍上、福永祐一は早めにスパートをかけます。
 

最後はエポカドーロが逃げ、後ろからブラストワンピース、エタリオウが迫ってくるという厳しい流れになりましたが、ゴール直前にようやくエポカドーロを捕らえ、半馬身差を付けてゴール。ワグネリアンは皐月賞のリベンジを果たし、福永祐一は19度目の挑戦にして悲願のダービージョッキーの仲間入りを果たしました。

 

ダービーのゴール
大混戦となったゴール前。ワグネリアンが半馬身だけエポカドーロを捕らえたところがゴールでした(筆者撮影)

レース後のインタビューで最後の直線の振り返ると「まるで新人騎手のような気持ちで、もうわけがわからなくなった。最後は精魂尽き果てていた」と今年でデビュー24年目となる大ベテランらしからぬコメントも飛び出しました。

ガッツポーズをする福永祐一
インタビュー後はガッツポーズで観客に応える福永祐一(筆者撮影)

 

栄光の影に潜んだ大波乱の決着

福永祐一&ワグネリアンばかりがクローズアップされた今年のダービーでしたが、実は3連単285万6300円の払い戻しをはじめ、ワイドと3連複でもダービー史上各識別の最高払い戻し金額を更新するという波乱の結果となりました。
 

そもそも5番人気のワグネリアンが勝ったこともありますが、2着も皐月賞を勝ちながら4番人気にとどまったエポカドーロが入り、3着にはなんと16番人気の伏兵、コズミックフォースが入ったことでこの大記録が生まれました。いずれも勝ち馬とのタイム差は0.2秒と接戦なだけに今後の成長度合いでは逆転も考えられます。
 

そして、戦前の下馬評では圧倒的な1番人気を集めていたダノンプレミアムは直線で伸び切れずまさかの6着完敗。弥生賞からの久々のレースとなったことが不安視されていましたが、レース振り自体は今までと同様。これなら直線で抜け出してきても不思議はないと思われましたが、直線では内に閉じ込められ、じりじりとしか伸ばせませんでした。ゴールした後に走るのをすぐやめてしまったところを見ると、初の2400mという距離に壁があったのかもしれません。
 

ワグネリアンの快勝で幕を閉じた今年の春クラシック。秋はこのままワグネリアンが王道を突き進むのか、それとも今日敗れた馬たちのリベンジがあるのか、はたまた……今年の3歳クラシックからはまだまだ目が離せません。

ダービー口取り
記念撮影に応じるワグネリアン陣営。オーナーの金子真人氏(左から3人目)は史上最多のダービー4勝目を達成(筆者撮影)

 

◆2018年日本ダービー全着順

着順  枠番  馬番  馬名 性齢  斤量  騎手 タイム/着差  人気  調教師
1 8 17 ワグネリアン 牡3 57 福永祐一 2:23.6 5 友道康夫
2 6 12 エポカドーロ 牡3 57 戸崎圭太 1/2 4 藤原英昭
3 4 7 コズミックフォース  牡3 57 石橋脩 クビ 16 国枝栄
4 7 14 エタリオウ 牡3 57 H.ボウマン ハナ 13 友道康夫
5 4 8 ブラストワンピース 牡3 57 池添謙一 ハナ 2 大竹正博
6 1 1 ダノンプレミアム 牡3 57 川田将雅 アタマ 1 中内田充正
7 3 6 ゴーフォザサミット 牡3 57 蛯名正義 1 1/4 7 藤沢和雄
8 7 15 ステルヴィオ 牡3 57 C.ルメール クビ 6 木村哲也
9 2 4 アドマイヤアルバ 牡3 57 丸山元気 3/4 17 須貝尚介
10 5 10 ステイフーリッシュ 牡3 57 横山典弘 クビ 10 矢作芳人
11 1 2 タイムフライヤー 牡3 57 内田博幸 1 1/4 14 松田国英
12 3 5 キタノコマンドール 牡3 57 M.デムーロ  クビ 3 池江泰寿
13 8 18 サンリヴァル 牡3 57 浜中俊 1/2 12 藤岡健一
14 7 13 グレイル 牡3 57 岩田康誠 3/4 9 野中賢二
15 5 9 オウケンムーン 牡3 57 北村宏司 2 1/2 15 国枝栄
16 8 16 ジェネラーレウーノ 牡3 57 田辺裕信 1 3/4 8 矢野英一 
17 6 11 ジャンダルム 牡3 57 武豊 1/2 11 池江泰寿
18 2 3 テーオーエナジー 牡3 57 藤岡康太 5 18 宮徹