列車内に窯!? 筑後の食材を生かした「レストラン列車」が登場へ
九州の大手私鉄西日本鉄道(西鉄)は、5月14日に行われた首都圏の報道関係者向け事業戦略説明会において、2019年春に運行開始を予定している新型観光列車について説明した。列車名は、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」。ネーミングで分かるように、レストラン列車である。
車両は、既存の通勤型電車6050形3両編成を大改造、1両目と3両目はテーブル席のレストランカーで、中間の2両目がキッチンカーとなる。窯を列車内に設置するのは他に例のない初めての試みだという。筑後地方を中心とした西鉄沿線地域の新鮮な食材を車内で調理し、できたての温かい料理を提供する予定だ。
メインディッシュは窯で焼き上げるピザで、アミューズや前菜にも沿線地域の食材を使用する。季節に合わせた旬の食材が味わえるように、シーズン毎にメニューを変更する計画である。ウェルカムドリンクとして飲みやすい「あまおうプレミアムスパークリングワイン」を提供するほか、沿線の地酒や果実酒も用意する。
運行日は金曜日と土休日。ランチやディナーを提供予定
運行日は金曜日と土休日で、西鉄(福岡)天神駅を11時30分頃発車する便は、ランチを提供する。観光地である柳川に停車(降車のみ)するほかはノンストップで、およそ2時間かけて終点の大牟田駅に着く。
帰路は、大牟田駅を17時頃発車する便で、車内ではディナーを提供する。やはり柳川駅に停車するだけ(乗車のみ)で、2時間ほどかけて西鉄(福岡)天神駅に戻る。
このほかモーニングの運行についても検討中で、案としては西鉄(福岡)天神駅と大宰府駅の間を走ることで調整中のようだ。
料金については未定ということで公表されなかった。高級レストランでの食事代程度と話すにとどめた。
外観塗装はキッチンクロスをイメージ!
キッチンクロスをイメージした赤いチェックの外観塗装は、グラフィックデザイナーの福岡南央子氏が担当した。赤く描かれた列車名は、よく見ると6つのアイコンを組み合わせたものである。各アイコンは、福岡県のいちご、久留米のお酒、柳川の川下り、久留米の葡萄、大牟田の産業遺産、それに小麦を表していて芸が細かい。
車内のインテリアは、竹細工や大川家具といった沿線の伝統ある工芸品とクリエイターの感性を掛け合わせ、魅力ある空間を演出する。面白いのは、床の人工大理石だ。これは、バラストといって線路に敷く砂利を加工したもので、鉄道らしさを演出している。
西鉄が今、観光列車を走らせるのはなぜ?
ところで、なぜ今になって観光列車を走らせることになったのか。背景としては、沿線人口の減少による鉄道利用者数の低迷という事実がある。アイデアを出し合って、魅力ある鉄道をアピールするための方策として、現社長が就任した5年ほど前から準備を進めてきた。3年前からは、事業創造本部の吉中美保子課長が列車開発担当者として具体的な作業に取り掛かっている。
JR東日本の観光列車である「TOHOKU EMOTION」や「現美新幹線」を手掛けたトランジットジェネラルオフィスの甲斐政博氏が全体をプロデュースし、ランドスケーププロダクツの片山貴之氏が内装デザインを担当している。
料理に関しては、軽井沢のピザの名店として知られる「エンボカ」を運営する今井正氏がメインディッシュの監修を担当、アミューズと前菜は福岡在住の人気料理家である渡辺康啓氏が監修する。各界の著名人が関わり、早くも話題となっている。
九州は観光列車の激戦区。しかし、西鉄は空白地にうまくターゲットを絞った?
九州と言えば、JR九州による観光列車は全国的にも知られ、人気を博している。そのエリア内で西鉄が新たに参入して観光列車を走らせることになったわけだ。しかし、よく見てみると、西鉄の沿線で競合する観光列車はない。有名どころの観光列車は熊本以南で走っているものが多いし、「ゆふいんの森」は、博多と久留米間で西鉄の路線に競合するといっても、通過するだけであくまで湯布院が目的地だ。
してみると、九州内でも観光列車空白地にうまくターゲットを絞ったことになる。水戸岡鋭治氏にデザインを依頼した肥薩おれんじ鉄道や平成筑豊鉄道とは一線を画するように、二番煎じではないデザインを考えたことにも生き残りをかけた戦略を感じさせる。
想定される客層としては、地元の人が特別な日のために乗車することや、福岡に滞在中の旅行者が日帰りで出かけるプランのひとつとしての利用を促すことなどを考えているようだ。新たに観光列車を走らせることで西鉄の存在感をアピールし、ひいては鉄道利用の促進を図るなどの戦略も練られている。
全国的に観光列車が増加し、激戦となりつつある昨今、どのような列車となるのか、今から2019年春のデビューが楽しみである。
取材協力=西日本鉄道株式会社(西鉄)