遺言の効果は絶大ですが……

相続にあたり、財産の継ぎ方を指定する手段として「遺言」があります。
 

今の法律では、財産承継にあたって遺言が一番に優先されます。親が長男に自宅と現金3000万を渡したいと遺言を残せば、その通りに承継されます。遺言の効果は絶大ですが、子どもの世代から「遺言書いて」などと直接言えば、ほぼ間違いなく機嫌を悪くするでしょう。
 

そして遺言には限界があります。限界を正しく知った上で活用することで、後々で家族の間で財産を巡って争うようなことも防ぐことができるでしょう。ここでは、遺言の限界と、その限界を超える財産承継の手段をお伝えします。

「2人いる孫のうち1人に財産を遺したいのですが……」

遺言に関して、以下のような相談を受けました。
 

◆相談内容

長男に2人の子どもがいるケース、つまり親にとっては孫が2人いるご家族です。孫のうち、1人は小さいころからよく懐いて、1人でも泊まりに来てくれるようなおじいちゃん子、おばあちゃん子です。もう1人の孫は、家によりつかないだけでなく、生活態度を注意すると、ふてくされるばかりか、こちらを威嚇してくるような状況です。
 

長男に財産を遺すことには異存はありませんが、素行不良の孫には自分が作った財産を渡したくないと考えています。自分が亡くなった後、長男にすべての財産を渡し、長男が亡くなった後は、その財産を懐いてくれている孫にあげてほしいと遺言に遺すことは可能でしょうか。
 

遺言の限界:承継先の指定は1代かぎり

残念ながら、現在の遺言制度では2代先まで財産の承継先を指定することはできません。本人が亡くなった後は、あくまでも長男の意志によって財産がどのように承継されるのかが決定されます。


遺言は、誰に財産を渡したいかは自由に決めることができます。たとえば、特定の寄付団体でも、介護でお世話になった他人でも、指定可能です。ただし、財産の承継先は自由に選べても、承継先の1代限りです。これが法律の限界です。
 

また、たとえ遺言で財産を遺す人とその財産の内容を指定しても、遺言通りに財産が分けられるとも限りません。相続人の間で財産の承継先について打ち合わせを行う遺産分割協議において、新たに取り決めた財産の分け方に全員が納得すれば、遺言に書かれた内容通りに財産を承継させる必要はないのです。このように、一見すると完璧に見えるような遺言でも実はいろいろな落とし穴があるのです。
 

家族信託で遺言の限界を突破できる

ここで効果を発揮するのが家族信託です。実は、家族信託では世代を超えて財産の承継先の順番を決めることができます。遺言ではできなかったことが、家族信託では可能になるのです。たとえば、自宅を長男が引き継ぎ、長男の死後は長男の嫁、そして長男の嫁が亡くなった後は、長男の息子にといった具合です。家族信託を活用すれば、「自分が亡くなった後は、自宅は本家である家系に使い続けて欲しい」という家督相続でありがちな願いを実現することができます。また、家族信託ではまだ生まれていない孫に承継先を指定したいという願いも実現することができます。
 

なお、家族信託でも、財産の承継先を何代も先まで指定できるわけではありません。指定できる期間は「30年間」と定められています。30年という期間の定めはありますが、遺言ではできなかった、世代を超えた財産の承継先の指定ができるようになるのです。
 

家族信託を行うということは、遺言と同じ機能をもち、財産の承継先を決めていくことになるのです。しかも、遺言の場合は財産の承継先は1代限りですが、家族信託であれば、1代、2代、3代、4代と指定することができます。そればかりか、一旦次男の血筋に相続された財産を長男の血筋にブーメランのように戻すことも可能です。


家族信託は、地主や資産家の家督相続を行う方だけの手段でありません。今までの家族間の付き合いで、この財産をこの人に渡した後に、確実にある人に渡したいという強い想いがある方にとっては、家族信託はまさに救世主になってくれるはずです。
 

「書いて欲しい」と言わずして遺言と同じ効果を得られる

「遺言を書いて欲しい」とはなかなか言えないものです。しかし「お父さん、お母さんの認知症や介護の時を考えて、家族信託を一緒に検討して欲しい」と伝えることで、認知症対策、将来の介護の時のための財産管理という切り口から親と話し合い、最後に、お互いの財産について確認しながら、相続対策または、財産の承継先をごく自然に決めることができるのです。遺言を書いて欲しいと言わずに遺言と同じ成果を得ることができるのです。