おでんツンツン、ドローン落下…何が「威力業務妨害罪」にあたる?

最近、コンビニで売っている「おでん」を指で「ツンツン」した男が威力業務妨害罪(他に器物損害罪)の被疑事実で逮捕されたり、JR京葉線の運行中の電車の下に潜り込んだ男がやはり威力業務妨害罪で逮捕されたという報道が相次いでいます。何が威力業務妨害罪にあたるのでしょうか。

電車下に潜り込みも「威力業務妨害罪」に

最近、コンビニで売っている「おでん」を指で「ツンツン」した男が威力業務妨害罪(他に器物損害罪)の被疑事実で逮捕されたり、JR京葉線の運行中の電車の下に潜り込んだ男がやはり威力業務妨害罪で逮捕されたという報道が相次いでいます。少し以前の話ですが、官邸の屋上にドローンを落下させるという事件があり、ドローンを落下させた男も威力業務妨害罪で立件されたことがあり、この事件では男は起訴され有罪の判決が下されたようです。

  

  

このように、おでんツンツンからドローン落下まで幅広く威力業務妨害罪で立件されていますが、では、威力業務妨害罪というのはどのような犯罪なのでしょうか。

  

適用される業務には経済活動やボランティアが含まれる

刑法では「威力を用いて人の業務を妨害した者」は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金と定められており、これが威力業務妨害罪の規定ということになります。

  

威力を用いるというのは、判例によると人の自由意思を制圧するに足りる勢力を使用することとされており、正直分かったような分からないような言い回しです。個人的には、このよく分からない定義が後に述べるように威力業務妨害罪が広く適用されるゆえんとなっているのではないかと感じています。

  

次に、業務の妨害という点ですが、業務というのは経済活動だけを指すのではなく、社会生活上の地位に基づいて継続的に行う事務や事業までを含みます。したがって、ボランティア活動なども含まれます。ただし、家庭生活での活動や結婚式のような1回的な活動は含みません。妨害というのは、実際に妨害される必要はなく妨害の危険が生じればよいと言われています。つまり、妨害の結果が生じなくとも威力業務妨害罪が成立するということです。

  

「デパートでシマヘビをまき散らす」も有罪になった一例

では、実際にどのような場合に威力業務妨害となるのか、実際の裁判例を紹介します。全て有罪、つまり威力業務妨害罪が成立すると判断された例です。

  

  • デパートの食堂配膳部にシマヘビをまき散らした
  • 机の引き出しにネコの死骸を入れて、被害者に発見させた
  • キャバレーの客席で牛の内臓を焼いて悪臭を放った
  • 捕獲網を切断して、捕獲されていたイルカを逃がした
  • 総会屋が株主総会で怒号を上げた

といったものが有名です。

  

これらの事例に共通点を見つけることは難しく、結局のところ、何らかの行為により業務の円滑な遂行を邪魔(妨害)したと評価できれば、威力業務妨害罪として立件されると考えてよいように思われます。したがって、業務妨害罪の成立は大変広く認められるのが現状の実務です。

  

おでんツンツンは、大した「威力」でないと思いますが(個人的にはツンツンするのが人の自由意思を制圧するに足りる勢力を用いたといえるかかなり疑問を感じますが・・・)、現状の裁判例と実務の状況からは「威力業務妨害」となる余地があるということです。

  

なかでも悪質な行為が威力業務妨害罪で立件される

このように広く威力業務妨害罪が成立するわけですが、どのような行為も立件されるわけではなく、そのなかでも悪質な行為が立件されていると思われます。おでんツンツン事件については、被疑者の男性と一緒にいた女性がツンツン行為を撮影しており、この女性も威力業務妨害罪で立件されたと報道されています。詳しい事情は不明ですが、このような事情も相まって悪質で立件が必要だと判断されたのかもしれません。

  

もっとも、犯罪が成立することと有罪判決を受けることとは別であり、立件されても検察官が犯罪の軽重や情状、被疑者の年齢や境遇等の様々な事情を考慮して起訴しないこともあります。起訴されなければ刑事裁判を受けることはありませんし、前科もつきません(ただし前歴はつきます)。このような検察官の処分を起訴猶予といいます。

  

ちなみに、おでんツンツンの被疑者は、起訴猶予ではないものの、処分保留で釈放されたそうです。検察官として、この程度のツンツン行為では威力業務妨害罪として有罪とはならないと判断したか、有罪となるだろうが前述のとおり諸事情を考慮して起訴しないのが相当と考えているのかもしれません。処分保留で釈放されると最終的には多くが不起訴処分となるからです。

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