高齢者ドライバーの事故 民事責任を考える

最近、高齢者が運転する自動車事故の報道によく接します。このような事故のなかには高齢者が認知症を患っていたように報道されているものもあります。

  

では、もし認知症を患っている高齢者が自動車を運転して事故を起こし、他人を傷付けてしまった場合は誰が法的責任を負うのでしょうか。法的責任には刑事責任と民事責任がありますが、以下では民事責任(賠償責任)について考えてみます。

  

「認知症=責任能力なし」なのか

責任能力がない場合、本人は被害者に対して民法上の賠償責任は負いません。ただし、認知症=責任能力なし、というわけではなく、個別の事案により責任能力の有無が判断されます。

  

もっとも、本人が民法上の賠償責任を負わないとしても、例えば認知症の運転者本人が自ら所有している自動車で交通事故を起こした場合などでは、死亡や怪我に対する損害の部分について自動車損害賠償保障法という法律で責任が認められます(責任無能力の場合には、この責任も認められないという考え方もありますが、最近の裁判例では認めるという方向性が強いように思います)。

  

家族は責任を負うのか?

では、本人以外の方は責任を負うでしょうか。最も問題になるのは家族です。

 

例えば、家族が自動車を所有していて本人に利用させていたということですと、ほぼ確実に自動車損害賠償保障法による責任を負うことになります。自動車損害賠償保障法では自動車の「運行供用者」は、原則として責任を負うことになっていますので、家族が「運行供用者」に該当する場合は責任を負うことになるわけです(一応例外として免責される場合もあります)。

  

問題は、自動車を所有しているのが本人の場合です。この場合は原則として本人のみが責任を負うことになります。しかし、家族が「運行供用者」と法律上評価されるのであれば責任を負います。

  

では、どのような場合に「運行供用者」と評価されるのかが気になるところです。実は、この点の議論は現状あまりないのが実情です。もっとも、子(未成年者)が所有している自動車について親が「運行供用者」として責任を負う事例は幾つもありますから(例えば、その自動車を親が買ってあげた、保険料を負担している等の色々な事情から判断されます)、これと同じように今後家族が「運行供用者」と評価される事例が出てくるかもしれません。

  

参考になるのはJR認知症列車事故の判決

次に、家族は、自動車損害賠償保障法だけではなく民法上の責任を負う可能性もあります。これを考えるにあたって参考になるのは、2016年3月1日に下されて大変話題になったJR認知症列車事故の最高裁判決です。

 

この判決は、認知症を患っていた高齢の男性が線路に侵入して列車の運行を妨げるという不法行為をしてしまった(なお、今回取り上げている交通事故を起こすことも不法行為です)場合に、認知症高齢者を介護している家族が被害者であるJR東海に対し責任を負うか否かの基準を示したものです。

  

この判決によると「(認知症高齢者との)身分関係や日常生活における接触状況に照らし…<中略>…加害行為の防止に向けてその者が…<中略>…事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる」場合には、その家族が責任を負うとしました。

  

判決だけ読んでも、どのような場合に責任が認められるか明確ではありません。そのため、現状では、今後の裁判例等での判断の蓄積を待つほかない状況にあります。

  

ちなみに、今まで述べてきたことは認知症高齢者について責任能力がない場合の話です。責任能力がある場合でも家族に責任が認められる余地もあるのですが、法律論としてはさらに別の検討が必要になってきます。