「妻が駅まで車で迎えに行く」が当たり前。バス空白地帯の日常
交通利便性を向上させるのは、自動車・鉄道だけではありません。私が市長に就任した当時、市内のバス交通は1日数便しかない路線が3路線あるだけでした。「バスのない暮らし」が広がっていたのです。
通勤・通学・買い物など、ほとんどの移動は自動車に頼るしかない状況でした。
たとえば、平日の夜遅く、夫が勤め先から帰ってくると、妻が駅まで車で迎えに行く。週末の買い物も家族全員で車に乗って、柏や松戸まで出かける。そういう生活が当たり前のように営まれていました。
2005年8月につくばエクスプレス(TX)が開業すると、都心からTX沿線の市内3駅までの所要時間が大幅に短縮されます。
しかし、バスの空白地域だった流山市は、駅から遠い住宅地までの公共交通がないため、家から勤務地や学校までの所要時間の短縮効果は、十分とはいえません。
そこで、TXの開業にむけて、まず民間バス事業者の路線の導入を図りました。
南流山駅や流山おおたかの森駅発着の路線を市からバス事業者に提案し、検討してもらいました。長い間、バス交通空白地帯だった流山市では、バス会社は慎重でした。
かつて、アメリカのヒューストン公営交通局で通勤バスやLRT(次世代型路面電車)の計画に従事した私の経験が大いに役立ちました。
市内にはなかったパターンダイヤ(等間隔運転)の導入を要請するなど、バス事業者と何度も協議を重ねました。TX開業にあわせ運行を開始した複数の路線バスは、それ以降、何度も増便を繰り返し、現在の運行ダイヤとなりました。
公共交通の担当は「全員マイカー通勤」。ゼロから生み出した“移動の選択肢”
路線バスの導入とあわせて、道が細く中・大型バスが通れない住宅地には小型バスを活用したコミュニティバス「ぐりーんバス」を計画しました。ところが、公共交通を担当する市役所の職員はほとんどがマイカー通勤。バスの利用経験はなく、「どんなバスが必要か」「どんな頻度で、どこを走らせるべきか」を考えるのは初めての経験でした。
そこで、公共交通の基本から職員たちと学び、TXの開業を機に、民間バス事業の導入とあわせて、市が運行するぐりーんバス路線を3路線運行開始しました。
その後、段階的に6路線まで増えていきます。ぐりーんバスも、基本的には30分に1本のパターンダイヤで運行するように設計しています。
この取り組みによって、流山市民に生まれたのが「移動の選択肢」でした。
車がなければ生活できないまちから、公共交通で動けるまちへ。市民の移動環境は大きく変わり、車をもたない世帯でも流山市での暮らしが可能になりました。
それまでは子どもが塾に通っていると、保護者が車で迎えに行く必要がありました。しかしバス路線が整備されたことで、子ども自身が1人で帰宅できるようになりました。生活の自由度が広がったのです。
バスの恩恵を受けたのは、私たちが誘致を目指していたDEWKS層だけではありません。高齢者を含むすべての世代の移動の利便性を高めることにもつながっています。
バスが走ることで、まちの風景も、人々の暮らしも、確実に変わっていきました。
※2016~2021年 全国の市で1位。総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」より この書籍の執筆者:井崎 義治 プロフィール
千葉県流山市長。1954年東京都杉並区生まれ。立正大学地理学科卒、サンフランシスコ州立大学大学院修士課程修了(地理学専攻)。米国で地域計画、交通計画、環境アセスメントコンサルティングに従事。89年に帰国後、流山市民に。都市計画コンサルタントを経て、2003年から流山市長。現在6期目。全国市長会副会長、千葉県市長会長、健康都市連合日本支部支部長などを歴任。



