3:「演じること」「うそをついてしまうこと」にどう向き合うか
物語の中盤から、主人公・フィリップの倫理観がさらに揺さぶられる、もはや「究極の試練」に直面するということも重要です。何しろ、シングルマザーからの「11歳の娘を競争率の高い私立校に入学させるため、面接の場で父親を装ってもらう」という依頼を受けるのですから。
そして、HIKARI監督は、前述したように主人公のフィリップだけでなく、この少女もまた実体験を元に描いていると明言しています。というのも、母子家庭で育った経験を踏まえ、「私のお母さんは、昔よく私にうそをついていましたね(笑)。私は父がずっと前に亡くなったと信じていたんですが、実際には元気に生きていました」と語っているのですから。
これと同様の、あるいは相反するエピソードが、『レンタル・ファミリー』の劇中にはあります。それは「子どもは大人のうそをどのように受け止めるのか」「その子どもに大人はどう向き合えばいいのか」という、普遍的な問いかけにも繋がっていたりもするのです。
そうした複数の物語の背景からは「日本社会における孤独や孤立の問題」も見えてきます。というのも、HIKARI監督は日本でのレンタルビジネスの台頭を、孤独の広がりはもとより、アメリカほど気軽にメンタルヘルスサービスを利用できる環境が整っていないこと、そもそものメンタルヘルスケアへの心理的ハードルの高さが影響していることを指摘しているのです。
日本を舞台にしていることはもとより、そうしたHIKARI監督の社会への眼差しを「当事者」として感じられる日本人こそ、本作のテーマにもっとも深く入り込めるのでは、と思えるのです。
『37セカンズ』もぜひチェックを
日本では2020年に公開された、HIKARI監督の名前を世に知らしめた映画『37セカンズ』も、ぜひ見てほしいです。 こちらは、漫画のゴーストライターをしている車いすの女性の「過保護な母親からの抑圧」を通じて、「障害者の可能性が制限されてしまっている」状況がリアルに描かれています。そして、女性の漫画編集者からの「妄想だけで描いたエロマンガなんて面白くないから、経験しておいでよ」というとんでもないアドバイスにより、性的な行為も含めた大冒険に向かうのです。発端は極端ですが、何かをきっかけにして人生が動き出すことをうたう物語に、勇気づけられる人はきっと多いでしょう。そして、主演の佳山明は生まれつき脳性まひがある、社会福祉士としても活躍されている方で、その当事者のキャスティングも内容に大きな説得力を与えていました。意外なクライマックスから導かれたラストには、言葉にならないほどの感動がありますよ。
これから公開の「日本を描いた2本の映画」も
さらに今後に公開される、日本が重要な要素になる2本の映画を、ぜひチェックしてほしいです。3月13日公開の『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は実在の卓球選手マーティ・リーズマンの人生に着想を得て描いたドラマで、第98回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など主要部門を含む、堂々の計9部門にノミネートされています。 その内容を端的に言えば、卓球版『あしたのジョー』。何しろ主人公は不遜な態度を崩そうとはしないイヤなやつ。その挫折と失敗に同情の余地がないほどサイテーなはずなのに、どこかチャーミングで憎めず、いつしか複雑な感情が芽生えていって、最後には途轍もない感動が待っている……! という傑作でした。日本人選手としてデフリンピックで2大会連続の銅メダルを受賞した川口功人が出演しているほか、しっかり「日本の風土や美術」が反映されていることも見どころです。
さらに、3月20日公開のフランス製のアニメ映画『アメリと雨の物語』は、ベルギーの小説「チューブな形而上学」を原作に、2歳半の女の子が1960年代の神戸の一軒家で暮らす様を描いており、第98回アカデミー賞では長編アニメーション部門にノミネートされています。 子どもの成長と心理を丹念に描く豊かで美しいアニメにずっと目頭が熱くなっていましたし、「子どもはとても良く考えているからこそ、大人は子どもにどう向き合うべきなのか」という問いかけは『レンタル・ファミリー』に完全に通じていました。ぜひ、併せてご覧ください。
この記事の執筆者:
ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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