ハラハラドキドキもできる、万人向けのエンタメだった!
結論から申し上げれば、本作は面白い! 物語に小難しさはなく、感情移入ができる。クスクス笑えるユーモアも、ハラハラドキドキするサスペンスもある。エンターテインメントでありながら、今の社会に鋭く切り込んだ視点もある。そのように全方位的に完成度が高い、万人におすすめできる傑作だったのです。なお、レーティングはG(全年齢)指定ですが、わずかに性風俗のシーンがあることにはご注意を。それもあまりどぎついものではないので、多くの人にとっては、それほど抵抗はなく見られるのではないでしょうか。
また、本作の物語はフィクションであり、意図的にせよやや荒唐無稽なファンタジーのように仕立てている部分もあるものの、実は「監督の実体験に基づいている」ことも重要でした。さらなる魅力を、知ってほしい特徴とともに記しましょう。
1:レンタルビジネスへの「戸惑い」どころか「嫌悪感」まで描いている
あらすじは、「世間から忘れられたアメリカ人俳優が、日本のレンタル家族の代理店で、見知らぬ人々の代役の仕事を始める」というもの。監督であるHIKARIのリサーチによると、現在は約300社ものレンタル家族業者が活動しているそう。つまりは、「現実の仕事」をはっきりと描いている作品でもあるのです。
「弔問客」役として招かれたことは分かっても、さらに遭遇する「まさかの出来事」には「え? どういうこと?」と、この映画を見ている観客も良い意味で困惑するでしょう。ここで主人公と観客の気持ちが一致しているため、コメディーとしてクスッと笑えると同時に、早くも彼に感情移入できるのです。 とはいえ、俳優として崖っぷちでもある彼には選択の余地はなく、その後も仕事を引き受けようとはする……のですが、それは客観的には「偽りの家族を演じる」という仕事。もっといえば「依頼者の周りの人たちを騙している」という罪悪感を抱いた彼は、仕事からあわや逃げ出しそうになってしまうのです。
それこそが「間に合ってくれ!」と願わざるを得ないサスペンスに繋がっている上に、その後には表面的な嫌悪感を覆す、仕事そのものの意義がはっきりと分かる、尊い光景も目にします。そこから彼がどのように心境が変わっていくのか、さらに「演技と現実の境界線があいまいになっていく」こと、後述する「うそをついてしまうこと」の葛藤に繋がる様も、大きな見どころになっていました。 そのため、本作はレンタルビジネスへあまり良い印象を抱いていない人にこそ、見てほしいです。それこそが前述した主人公の戸惑いや嫌悪感に一致しており、その先の出来事からは「偏見」もあったと気付かされるでしょう。同時に、レンタルビジネスの全てを肯定するような欺瞞(ぎまん)にも陥っておらず、むしろ仕事そのものの問題点を真正面から見つめてもいました。
そうした社会的な批評性を備えていながらも、やはり主人公の気持ちがとてもよく分かるドラマでありエンタメになっていることが、本作の一番の美点でしょう。
2:主演のブレンダン・フレイザーの来歴やHIKARI監督の経験が内容とシンクロする
本作でさらに重要なのは、主演がブレンダン・フレイザーであること。そして、俳優としての挑戦が、役柄とシンクロして見えることです。そのフレイザーは1999年のアクション映画『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』が特に有名ですが、体調の悪化、結婚生活の破綻、そしてセクシャルハラスメントを受けてうつになったことが重なり、ハリウッドの表舞台から遠ざかっていたこともありました。
しかし、2022年の『ザ・ホエール』では「体重272キロの孤独な男」という難役を演じきり、第95回アカデミー賞で主演男優賞を受賞するという復活を遂げたのです。 HIKARI監督が『レンタル・ファミリー』でフレイザーを主役に迎えたのは、まさに『ザ・ホエール』の試写でその演技を見たこと、さらに上映後のフレイザーのオンラインでの質疑応答を見て、「彼の誠実さと魅力に『ああ、これが私のフィリップ(主人公)だ』と直感した」ことだったのだとか。
当のフレイザーは『レンタル・ファミリー』への出演を快諾したものの、劇中の主人公・フィリップは「日本語を流ちょうに話せないものの東京に長く住んでいる」設定であるため、一定の語学力はもちろん、日本文化への理解は不可欠。そのために通訳の指導を受けるのはもちろん、撮影開始の数週間前から来日し、ポケット翻訳機を手に街を歩き回り、できるだけ多くの人々と会話を試みたそうです。
17歳で大阪からユタ州へ移住したHIKARI監督は、外国で暮らすアメリカ人俳優の物語を描きたいと考えていました。交換留学生として高校で唯一のアジア人だった彼女は、「その感覚を、東京で暮らす外国人なら誰もが感じる“漂流感”――国や文化に完全にはつながれない、圧倒されるような感覚として表現したかった」とも語っていたのです。
このように、『レンタル・ファミリー』には監督の実体験と、俳優たちの役作りおよび個人的な心情が重なり合っています。キャラクターそれぞれに「本当にこういう人がいる」と思えるほどのリアリティが宿っているのは、そのためでしょう。



