夏季競技の一部を冬季五輪へ
ミラノで開かれたIOC総会では、五輪の競技種目の見直しを検討する作業部会のカール・シュトス部会長が「全関係者を満足させることは不可能だが、(夏冬の)競技種目数の均衡や持続可能性などを確保する責任がある」と説明し、2030年にフランス・アルプス地方で開催する次の冬季五輪に、夏季競技の一部を移す意向を明らかにしました。6月のIOC総会でこの問題を話し合い、追加競技を決定する見込みです。もはや雪と氷の競技だけで冬季五輪を存続させるのは難しくなってきたとIOCは見ているのでしょう。
五輪憲章には「雪上または氷上で行われる競技のみが冬季競技とみなされる」と規定されています。夏季競技を加えるとすれば、この条文だけでなく、冬季五輪に対する定義を根本から変えることも必要になってきます。
肥大化する夏の五輪も課題山積
日本人初の冬季五輪メダリスト(1956年コルティナダンペッツォ五輪・スキー男子回転で銀メダル)で、のちにIOC委員となり、副会長を務めた猪谷千春氏は、著書『IOC: オリンピックを動かす巨大組織』(新潮社)の中で、「オリンピックのバスは満員だ」という言葉を紹介しています。 これは第7代IOC会長を務めたフアン・アントニオ・サマランチ氏(2010年死去)が、肥大化する五輪を表現した名言だと猪谷氏は述べています。五輪の商業主義化を進めたIOC会長のもとには、「バスに乗せてくれ」と言わんばかりに、さまざまなスポーツが五輪の仲間入りを求めてきたのです。猪谷氏は「私が一番心配しているのは、オリンピック競技大会がこれ以上、大きくなってしまえば、もはや開催できる都市がなくなってしまうのではないか、という問題だ。財政的な負担だけでなく、開催都市の市民の生活を脅かすことになりかねない」と危惧しています。
2年後に夏季大会を開くロサンゼルス五輪では、追加の5競技を含めて史上最多の36競技が予定されています。肥大化の抑制は効かず、大会規模は拡大するばかりです。
夏季五輪の開催時期にも懸念の声が上がっています。巨額の放映権料を支払うアメリカのNBC放送の意向に配慮して、今は7~8月の実施を基本としています。これは秋に五輪を開催すると、米国では野球やバスケットボールなどのプロスポーツが目白押しのため、五輪の視聴率が下がってしまうという事情があるからです。
しかし、気候変動に伴い、酷暑の中での夏季五輪には無理も生じています。IOCはマラソンや競歩を早朝に実施するなどの対応を取っていますが、選手の健康面を軽視していると批判が高まっています。



