アヘン戦争以来、列強に蹂躙され、プライドを破壊された歴史。そして習近平自身も文化大革命で父が失脚し、下放を経験した過去を持っています。
日本は奇跡的に滅んでいないだけかもしれない——。中国通ジャーナリスト・武田一顕氏の著書『日本人が知っておくべき中国のこと』(辰巳出版)より一部抜粋・編集し、中国を「正しく恐れる」ための視点を紹介します。
習近平も「いつ殺されるか」と怯えている?
無表情で、南シナ海や東シナ海、尖閣諸島に攻勢をかけてくる習近平の中国を見れば、誰もが恐ろしい国だと考えるでしょう。ただ、中国人にはルサンチマン(※弱者が自分のかなわない強者に対して抱く、怒り、恨み、憎しみ、非難、嫉妬などの感情)の考え方が根底に流れているように見えます。そしてそれは、習近平個人も同じです。
中国はアヘン戦争以来、領土を奪われ、人々は蔑まれ、列強にボロボロにされて、そのプライドは徹底的に破壊されました。そこへトドメを刺したのが、日本です。
同じアジア人でありながら、明治維新以来、富国強兵を推し進め、日清戦争で清国に勝利して台湾を奪い取りました。その後も1931年には、柳条湖事件をでっち上げて、中国へどんどん進出していきます。
北京や南京を日本に占領され、ここでも中国のプライドはへし折られます。数千年間、弟分くらいにしか考えていなかった日本に侵略されて、中国と中国人は日本を深く恨むようになります。
こうした、いじめられてきたという感情が、中国人の根っこにあるということを覚えておきましょう。
習近平個人にも、文化大革命で父親が失脚し、自らも下放によって地方での労働生活を余儀なくされ、若い頃にいじめられたという強い被害者意識に苦しんだ記憶があるのです。
彼は中国のトップに立った今も、いつ殺されるかもしれないという恐怖と日々闘っています。
中国国内でさまざまな恨みを買っているのは、ほかの国の指導者とも同じですが、アメリカと対立することで、アメリカから攻撃される恐怖もあります。
習近平に何度も会ったことのある私の中国人の知人が、こう話していました。
「アメリカは、自分の気に入らない他国の政権を転覆させて、その国の指導者を殺害してきた。イラクのフセイン、リビアのカダフィ、サウジアラビア出身のビン・ラーディン……中国に対しても、いつ何を仕掛けてくるかわからないのだ」
つまり、習近平とその側近たちは、「アメリカが中国共産党政権を転覆させようとしている」と考えているのです。
1989年に起きた天安門事件も、2014年に香港で起きた、いわゆる雨傘運動も、裏でアメリカが糸を引いていると、半ば本気で信じています。
賢い人間が10倍なら、悪人は100倍いる国
中国は、日本の約11倍の人口14億人を擁しています。単純に考えて、日本の10倍以上の賢い人間がいることになります。その中でもスーパー賢い人間が、何パーセントかはいるしょう。賢い人間が10倍以上だとして、逆に悪いヤツはそれどころでは済みません。中国には、日本の100倍くらいの悪人がいるというのもまた真実です。
私も中国滞在中には、出資話などで何度か騙されています。1回の額は、数万円から十数万円でしたから、勉強代だと考えて諦めました。
私は中国古陶磁の鑑賞を趣味にしているのですが、中国では、とても精巧な贋物が作られています。
特に宋時代の、陶磁器の名窯である景徳鎮(けいとくちん)で造られた青白磁や同じく宋時代の耀州窯で作られた美しいオリーブグリーンの青磁は、骨董のプロでも騙されるほど精巧なものです。
お恥ずかしい話ですが、私もいくつもの偽物陶磁をつかまされました。
「悪貨は良貨を駆逐する」といいますが、中国で暮らすと、どうしても中国人の中の悪人のほうが目立ってしまい、中国人全体を侮るようになったりするものです。
しかし私は、中国人を侮ってはいけないと言いたいのです。
戦前戦後を通じて、中国は日本と比べると格段に遅れた状況にあり、中国と中国人を軽んじる風潮が生まれました。時代が変わった今でも、この風潮は消えていません。
私は幸運にして、中国の知識人と交際することが多く、彼らの優秀さに舌を巻くことが何度もありました。
歴史的に、様々な物や思想や制度を発明してきたアジア先進国の人々として、敬意をもって接することがまず必要なのです。とても当たり前のことなのですが……。



