「女子枠」は男性への逆差別なのか?
さて、粗品さんの審査コメントをきっかけに再燃した「女性だけの賞レースは逆差別ではないか」という議論。この騒動を見ていて、普段、大学受験業界に身を置く私は「理工系学部の女子枠批判と同じ構造だな」と感じました。なぜ『THE W』が始まったかといえば、そこには「劇場の客層」や「審査におけるバイアス」といった、女性芸人が直面する構造的な不利があるからです。
『THE W 2021』で優勝したオダウエダは、もともとは一部のお笑いマニアの間でのみ評価されていた「エッジの効いた女性コンビ」でした。
ふくよかな体型の植田さんが「カニ、カニ」と叫び続けるシュールなコントで優勝した事実は、『THE W』が「『M-1』や『キングオブコント』では拾われにくい才能」を発掘する場として機能していることを証明したと言えるでしょう。
この「女性しか参加できない賞レースTHE Wは逆差別か」という意見を見て、普段、大学受験業界に身を置く私は理工系学部の入試の「女子枠」問題を思い出しました。
お笑い界に女性が少ないのに構造的な理由があるのと同様に、大学の理工系学部に女子が少ないのにも、なにかしらの理由があるはずです。
よく「理工系は数学の配点が高いから女子に不利」といった説も聞かれますが、東京大学の最難関である理科三類(医学部系)の女子比率は約21.4%であるのに対し、理科一類(工・理学部系)は約8.4%しかありません(数値は年度による)。最難関の理三にこれだけ女子がいる以上、単なる学力差や科目の得意不得意だけでは説明がつきません。
女子が医学部には進学するけれど、工学部や理学部へは進学したがらない理由を、単に「本人の好み」や「手に職志向」という言葉だけで片付けてよいのでしょうか。
そこには、お笑い界における「ツッコミの言葉の強さ」のような、見えにくい心理的・社会的なハードル(ジェンダーバイアス)が存在している可能性があります。
男女の権利格差が法的に明らかだった時代ならいざ知らず、現代において「女性だけの大会」や「女子枠」を設けるのであれば、主催者側は「なぜ、女子だけでやる必要があるのか」という背景にある構造的な不均衡を、もっと丁寧に説明する必要があるのではないでしょうか。
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粗品の『THE W』酷評で再燃した「逆差別」論争。大学入試と共通する、女性が勝てない“劇場の構造” この記事の執筆者:佐藤れん プロフィール
受験業界に身を置く教育ライター。専門はジェンダーと大学受験。かつては大学の非常勤講師をしていたことも。



