日本で議論が高まる「外国人対策」。アメリカでは州兵動員まで起きるほど「移民問題」が深刻化している

生活の不安が高まる中、日本でも“外国人とどう共生するのか”が大きな論点になっています。アメリカではその課題がさらに深刻化し、不法移民の増加に州兵まで動員される事態に。その混迷の背景と、アメリカが直面する現実とは?(画像出典:PIXTA)

画像はイメージ(画像出典:PIXTA)
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日本では高市政権が“ルールを守らない外国人への厳格対応”を打ち出し、SNSでは賛同の声が広がっています。治安悪化で生活の不安が高まる中、日本でも“外国人とどう共生するのか”が大きな論点に。

一方、アメリカでは不法移民問題が国家レベルの危機に発展し、州兵派遣まで行われているという報道も。

本記事では、この混迷の背景と移民国家アメリカが直面する現実を、『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(中林美恵子・著/辰巳出版)から読み解きます。アメリカの例から、私たちは何を学ぶべきなのでしょうか?

不法移民と州兵の動員

アメリカが直面している混迷の1つに、不法移民問題があります。アメリカは移民の国です。そもそものアメリカの歴史も、17世紀初めに当時のイングランド王ジェームズ1世による弾圧から逃れて、人々が上陸したことから始まっています。

ここでいう「移民」とは、外国生まれでアメリカに移住してきた人(国籍は問わない)のことですが、国際移住機関(IOM)の『2024年版世界移住報告書』によると、国際的な移民は2億8100万人で、世界人口の約3.6%に当たると推定されています。

アメリカは世界最大の移民受け入れ国で、2020年時点の移民数は4343万人で、人口に占める移民の割合は13.1%に達しています。

アメリカには、「家族に基づく移民ビザ」「雇用に基づく移民ビザ」「国際養子縁組」などがあり、これを取得すると、入国が許可された時点で合法的に入国した移民、米国永住者または条件付永住者の資格を得られるとされています。一方で、「移民ビザ」を取得せずに入国した人を「不法移民」と呼びます。

トランプ大統領は、「不法移民」に厳しい措置をとっています。第1期目には、不法移民をなくすためにメキシコ国境に壁をつくりました。不法移民だけではなく、敵対する国々からの留学生などについても認めないという強硬な姿勢を示しています。

アメリカ移民・関税執行局(Immigration and Customs Enforcement:ICE)による苛烈な取り締まりを強化したため、2025年6月には、サンフランシスコなどで大規模な「不法移民取り締まり反対運動」が起き、一部が暴徒化しました。

それに対してトランプ大統領は、州兵を動員して鎮圧にあたっています。アメリカでは基本的に州兵は各州が保有し、平時は州知事の指揮下にありますが、有事の際は大統領の指揮下に入ることになっているからです。しかし、過激な反対運動を「有事」と見るかどうかの判断は微妙であり、このことで、州知事との間で軋轢が起きました。

アメリカ移民の現状

アメリカで移民が問題になるのは今回が初めてではありません。移民に対する恐怖感や反感は常に存在し、様々なかたちでしばしば表面化しています。たとえば、太平洋戦争中には、日系移民が排斥され、収容所に隔離されたことがありました。

その根拠の1つは、1798年に制定された「敵性外国人法」です。戦時下を想定した古い法律であり、本来は「不法移民」に適用できる根拠法ではなく、戦時に敵国の国籍者を対象とする法律です。しかし、トランプ大統領は今回、これを使って「不法移民」を排除しようとしているのですが、平時にもかかわらず「敵国」というのは理にかなわないとして物議を醸しています。

ここで1つ確認しておかなければならないことがあります。それは、アメリカという国が「移民」に依存している面も大きいということです。

たとえば、アメリカの合計特殊出生率は1.7です。一般的に、合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの平均人数)が2.06を下回ると人口が減少するといわれていますが、アメリカの人口は増え続けています。

それは毎年多数の移民を受け入れているからです。人口が増加するということは労働力の増加を意味していますから、アメリカの経済成長にとってプラスになっているということです。

今アメリカで移民問題がクローズアップされている背景には、戦後長く「アメリカ一強」の時代が続いたこともあって、移民の受け入れに比較的寛容だった側面もあるでしょう。その結果、アメリカには多様な人々が、様々な宗教と共に暮らしています。

たとえば、タクシーの運転手の方に出身国を聞くと、アフガニスタンとかイランという答えが返ってきます。まさに世界中から人が集まっているのです。

アメリカ生まれではない人たちがアメリカ経済を支え、社会の中に根付き、その子どもたちがアメリカの学校で教育を受けています。

日本人が知っておくべきアメリカのこと
日本人が知っておくべきアメリカのこと

この書籍の執筆者:中林美恵子 プロフィール
政治学者。早稲田大学教授。公益財団法人東京財団理事長。埼玉県深谷市生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)。ワシントン州立大学修士(政治学)。米国家公務員として連邦議会上院予算委員会に勤務(1993年-2002年)。約10年間、米国の財政・政治の中枢で予算編成の実務を担う。元衆議院議員(2009年-2012年)。

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