なぜクマの人身事故は急増したのか。自然写真家が語る「冬もクマが出る」異常事態の悲しい原因

クマ出没のニュースが頻発する2025年。なぜ人身事故が増えたのか、こうした状況にどう向き合えばいいのか? 書籍『クマはなぜ人里に出てきたのか』に記されたクマの行動原理と事故増加のメカニズムからヒントを読み解きます。(サムネイル画像出典:PIXTA)

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朝の散歩や通勤の途中で「クマを見た」という声が増えている2025年。これまで山奥にいるはずだったクマが住宅地や通学路の付近に現れ、事故の報道も後を絶ちません。

なぜここまでクマの人身事故が増えたのでしょうか。そして、こうした状況に私たちはどう向き合えばいいのでしょうか。

この問いのヒントとなるのが、自然写真家・永幡嘉之氏の著書『クマはなぜ人里に出てきたのか』(旬報社)に記された、クマの行動原理と事故増加のメカニズムです。本記事では、その重要な一節を抜粋して紹介します。

クマの人身事故はなぜ増えたのか?

秋田県でのツキノワグマによる人身事故は、例年は6件から12件ほどで推移していたものが、2023年には62件にものぼりました。

以前から山形県で新聞報道など目にするなかで、ツキノワグマが住宅地に出てくる場所には共通性があることに気づいていました。水田の中に川に沿って樹林がある場所、なかでも河岸段丘もしくは幅広い河川敷がある場所の付近に集中しています。

夜間に餌を食べるために川沿いの森伝いに下りてきて、夜明けまで餌を食べ続けた結果、早朝に人が行動を始めてしまい、森林に戻れずにパニック状態になる個体が、学校や人家に飛び込んだり、住宅地を走り抜けたりしていると考えられます。

事故は、必然的に早朝に集中しています。また、藪に潜んで人が通り過ぎるのをやり過ごそうとしているときに人が接近してしまった場合や、子連れの母グマが仔グマを守ろうと襲いかかる場合など、詳細に調べれば、それぞれの例はツキノワグマの行動の面から説明できます。

2023年の秋田県での人身事故の多発は、いずれもツキノワグマの通常の行動として説明が可能でしたし、事故は出会い頭に偶発的に起こるため、ツキノワグマの密度が高くなれば、発生件数は必然的に増えていきます。

事故の報道が多くなるほど、恐怖を煽り立てる風潮がどうしても生まれてしまいますが、2016年に秋田県鹿角市の山中で見られたような、クマのほうから人を襲うようなことは起こっていないと考えられました。

クマは人に慣れるのか?

次に、ツキノワグマが人に慣れる傾向がみられるかどうかも気にかけていました。

10月に秋田県で3度にわたって出会ったそれぞれ3個体・10個体・16個体は、2例を除けば強い警戒心を持っており、私の気配に気づくと同時に逃げました。

例外的だった2例はといえば、29日に子連れのメスが100メートルほど離れたところで重機による畦の補修が始まってもイネを食べ続けていた例と、31日に、やはり子連れのメスに対して住民がロケット花火で追い払おうとしても、少し移動しただけで、そのままソバを食べ続けた例です。

ロケット花火も重機もその場所で何度か使われていた可能性が高く、クマのほうがすでに花火や重機が音しか出さず、危害を加えてこないことを学習していた可能性が高いと受け止めました。

11月1日には狩猟が解禁になりました。11月8日に一帯を走った際にはツキノワグマの姿は消えており、10月には重機の音でも親子が逃げなかった水田に行くと、前足に生々しい銃創を負った仔グマ1個体だけが、稲刈りの終わったなかで落ち穂を拾っていました。

本来であれば越冬を控えて山に移動してゆく時期です。私が多くの個体を見たのは10月31日までで、その翌日から狩猟が始まったことになります。

それまでロケット花火などで脅すだけで、危害を加えてこなかった人間が、ある日を境に銃を使用するようになったことで、秋の狩猟期間には、日中にも姿を隠さずに活動していた子連れのメスが捕獲されやすかったのではないかと思われました。

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「いつまでもクマが出る」異常事態の真相とは?
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