「午後の明るい時間にも出る」は本当だった
2023年は東北地方各地でツキノワグマが人の生活圏に出てくる例が重なり、秋になるとクマに襲われて怪我をしたという人身事故のニュースが、連日のようにテレビや新聞で報じられました。人身事故は秋田県が62件、岩手県が46件と突出して多かった一方で、私が暮らす山形県では5件と、例年に比べて決して多くはありませんでした。
私もまた山形県で昆虫を調べ歩くなかで、ツキノワグマの動向も気にかけてきましたが、秋田県ではクマが人里に出てくるという話が繰り返し伝わってきていた一方で、山形県では姿を見る場面は多くありませんでした。
秋田県ではいったい何が起きているのだろうか。それを確かめるために、私は様子を見に来たのです。
10月17日の午後、池のゲンゴロウ類を調べるために秋田県北部を通った時に、「このあたりなら出てきそうだな」と思う山間の田んぼが目にとまりました。
車を停めて刈り入れの遅かった水田を見下ろすと、そこから親子のツキノワグマが林に消えていき、近くの田んぼでは畦の陰に姿を隠して人が去るのを待っているクマを間近で見ました。
午後の明るい時間にも水田に出てきているという話は本当でした。それならば、ツキノワグマが現れやすい早朝の様子も確かめねばと、仕事を調整して2日間の予定を空けて、夜道をひた走ったのでした。
この書籍の執筆者:永幡嘉之 プロフィール
自然写真家・著述家。1973年兵庫県生まれ、信州大学大学院農学研究科修了。山形県を拠点に動植物の調査・撮影を行う。ライフワークは世界のブナの森の動植物を調べることと、里山の歴史を読み解くこと。里山の自然環境や文化を次世代に残すことに、長年取り組む。著書に『クマはなぜ人里に出てきたのか』(旬報社)、『里山危機』(岩波ブックレット)、『大津波のあとの生きものたち』(少年写真新聞社)、『巨大津波は生態系をどう変えたか』(講談社)など。



