江戸川沿いの料亭で鯉こくやうなぎを味わい、店主から「うちは江戸時代から続いているんだよ」と聞いたときの驚きがはじまりだった。店の佇まいや、受け継がれてきた味に深く心を動かされ、ほかにも同じような店があるのではないかと探し始めた。
“老舗”は、日本にとって大きな価値をもつ存在である。数の多さだけでなく、その多様性と土地との深い結びつきに、日本らしさが凝縮されている。
本記事では、相川さんの新刊『日本老舗食堂大全』(辰巳出版)から一部抜粋し、地元に根を張ってきた東京の大衆食堂・レストランを紹介する。日々の食事にも、ちょっとした特別な場面にも使える、街の空気が感じられるような店たちだ。
東京の「大衆食堂・レストラン」3選
観光地の名物ではなく、地元に寄り添い、長く親しまれてきたのが、大衆食堂や町のレストランである。気取らない味、落ち着いた空間、通いたくなる温かさ。一皿には、地域に根づく暮らしと、変わらぬ魅力がある。そんな東京の老舗を3店紹介しよう。1. レストラン 鳩家
東向島三丁目交差点そば、東武スカイツリーライン各駅から徒歩7分ほどの立地にある『レストラン鳩家』は、1915(大正4)年創業の老舗洋食店である。「鳩家」というユニークな屋号は、創業者が鳩山家音羽御殿の料理担当であった縁に由来する。
看板メニューは「ハトヤランチ」。大ぶりのエビフライとハンバーグという2大人気メニューを中心に、誰もが親しみやすい洋食を一皿にまとめた、“大人のお子さまランチ”の異名をもつ名物だ。
また、新鮮な豚肉を用い、濃厚なデミグラスソースで仕上げた「ヒレカツサンド」も名物の1つ。洋食店らしい丁寧な仕事ぶりが随所に光る、満足度の高い1品である。
レストラン 鳩家
東京都墨田区東向島3-37-72. 洋食 入舟
名物の「天使のエビフライ」をはじめ、オムライスやアジフライ、クリームコロッケなど、どの料理も職人のこだわりが感じられる逸品ばかりが揃う。
迷ったときは、名物を少しずつ味わえる「入舟ランチ」もおすすめ。終日注文できるとあって、幅広い客層から支持を集めている。昼はゆったりと、夜は酒とともに、時間帯を問わず楽しめる洋食の名店である。
東京都品川区南大井3-18-5
3. キッチン大正軒
JR有楽町駅の目の前、東京交通会館地下1階の「横っちょ横丁」にある『キッチン大正軒』は、1914(大正3)年に精肉店として創業。1963(昭和38)年の交通会館開業にあわせて、現在の場所へ移転した。
名物は、いうまでもなく肉料理である。メンチカツ、ハンバーグ、豚しょうが焼と、主役級の品々が揃う。エビフライやアジフライといった揚げ物も充実している。
注文の基本は、A・B・Cの3種から選べる定食だ。定番の肉料理と揚げ物を組み合わせた構成で、いずれも満足度が高い。
さらに食べたい場合、追加オーダーも可能。まずは定食を軸に、好みに応じて料理を選ぶのが、この店の楽しみ方である。
キッチン大正軒
東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館 B1F この書籍の執筆者:相川 知輝 プロフィールWebサイト『老舗食堂』の運営者。47都道府県の100年超え老舗店を3000軒以上訪問している。各種メディアへの出演、取材協力などの実績多数。著書『日本老舗食堂大全』(辰巳出版)。



