1:とてつもない数字、そして上映時間は191分!でも身構えすぎないでほしい
本作『宝島』で公式に示されている、見ているだけでクラクラしてきそうな数字は以下です。これらから想像できる(あるいは想像できないほどの)作り手の苦労と執念は、「アメリカ統治時代の沖縄」の「再現」を超えてもはや「本物」としか思えない画を見てこそ、真に伝わるでしょう。 それはそれとして、191分という長尺に身構えてしまう人もいるかもしれません。トイレを鑑賞の直前に済ませておくことは言うまでもなく必須ですし、なるべく体調が良い時に劇場へ足を運んだほうがいいでしょう。構想6年 2度の延期 総製作費25億円
撮影期間106日 沖縄ロケ41日 ロケ地43カ所
エキストラ延べ5000人 希少アメリカンクラシックカー約50台
CGカット数615カット 圧巻の本編尺191分
しかし、「1950〜70年代の20年にわたる戦後沖縄の物語」を描くためには必要な尺だと納得できますし、劇場で「どっしり」と腰を据えて見てこその作品だと思うのです。
何より、決して小難しい内容ではなく、後述するように感情移入がしやすいドラマが根底にあり、テンポも良く、先が気になるエンターテインメント性も十分です。「3時間超もあるのか」とネガティブに捉えすぎず、「3時間超は必要な長さであるし、実際に見てみればあっという間だった」という体験のほうを、ぜひ期待してほしいのです。
そういった、やや過激な描写も、劇中の暴力の危うさを示す上で必要だと思えました。民衆の怒りが爆発した、約20分という長尺で描かれる「コザ暴動」は、ぜひ劇場の環境で見届けてほしいですし、それでこそ戦後80年という節目の年である今、当時の出来事を「体感」する意義があると分かるはずです。
2:「戦果アギヤー」だった者たちの青春物語
本作の物語そのものはフィクションですが、戦後アメリカ統治下の沖縄の背景や、実際に起こったコザ暴動など、史実が大いに反映されています。事前の知識が求められるのではないか、歴史に明るくないと楽しめないのではないかといった不安が、191分という上映時間以上に、かえってハードルを高くしているのかもしれません。
しかし、その必要はないと断言します。最低限、事前に知っておくべきなのは「戦果アギヤー」という言葉だけで問題ありません。
彼らの荒々しい手口が描かれる冒頭から、スリリングで引き込まれるはず。さらに、大友啓史監督は、プレス向け資料で戦果アギヤーについて、以下のようにも語っています。
本作の主人公は実質的に3人。グスク(妻夫木聡)、レイ(窪田正孝)、ヤマコ(広瀬すず)は、それぞれ別々の道を選んでいくのですが、その3人共が戦果アギヤーのリーダー格だったものの、消息を断ったオンちゃん(永山瑛太)の「影」を、ずっと追い続けているようにも見えるのです。大友監督の「青春物語」という指摘も「まさに」と納得させられます。米軍基地に忍び込んで物を盗むことは、現代では到底信じられないことですが、当時の沖縄は本当に貧しくて、米軍側もそれを分かっているから、あえて見逃していたところもあった。孤児たちは、フェンスを越えたり穴を掘ったりして基地や倉庫に忍び込み、鉄屑や薬莢などを盗み、それを売ることでなんとか生きていた。それが戦果アギヤーの始まりです。
けれどその行為は、彼らの成長とともにエスカレートして、規模が大きく、より切実な行為になっていく。最初は「お腹が空いたから何か欲しい」という目的だったのが、大人になり社会も変わっていく中で、誰かのために、困っている皆のためにという行為へと変容する。
それはまるで、現代にも通じる青年たちの意識の成長を、あるがままに捉えているかのようです。『宝島』は、沖縄がアメリカだった時代の青春物語です。
彼らが歩んできた約20年の歳月で、どのように彼らの人生が、また時代が変わっていくことにも、大いに注目してみてください。



