公立高校「併願制」は諸刃の剣? 愛知県の前例が示す、受験生を苦しめる“大問題”

石破首相の指示で公立高校の併願制が検討されています。しかし、35年以上同様の制度を持つ愛知県の高校教員は、「制度が不公平感を生み、進路選択に悪影響を与える」として強く反対しています。(画像出典:PIXTA)

国が併願制を導入する狙いと懸念点

こうした問題があるにもかかわらず、国が愛知県の複合選抜制度と似たデジタル併願制の導入を検討し始めたのはなぜでしょうか。

『産経新聞』(2025年7月5日付)は、デジタル併願制を導入する理由として「(高校授業料無償化で)懸念される生徒の公立離れを抑制したい狙いがある」と朝刊の1面トップで報じています。

来年度から私立高校にも授業料無償化が拡大されることで、経済的な理由から私立を諦めていた層が受験しやすくなります。

実際に『日本教育新聞』(電子版、2025年8月25日付)によると、「私立高校の授業料無償化の方針を受けて、中学生の15%、保護者の22%が公立高校から私立高校へ希望進路を変更したことが、北海道教委の調査で分かった」と報じています。

少子化による定員割れの公立高校が増える中で、この「公立離れ」はさらに加速する可能性が高いと見られています。デジタル併願制の導入は、これを食い止めるための一手というわけです。

しかし、デジタル併願制で公立離れを食い止められるかは疑問です。校舎が古かったり、教員不足が深刻だったりと、公立高校は多くの問題を抱えています。こうした根本的な問題を解決せずに、「入学できるチャンスが広がった」というだけで志望者が増えるとは考えにくいでしょう。

前述の『産経新聞』も、「学校現場と歩調を合わせる文部科学省には『偏差値による公立高の序列化を助長しかねない』とする危惧もくすぶっている」と伝えています。山下さんが指摘する愛知県での懸念が、文科省内部にもあるのです。

高校の序列化が明確になることで、自分の「ランク」まで決められてしまいかねない公立高校を、受験生が敬遠する可能性も否定できません。デジタル併願制は、公立高校への入学機会を広げるどころか、かえって公立離れを加速させかねないリスクをはらんでいます。

問題の多いデジタル併願制の導入について、今後も注視していく必要があるでしょう。

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この記事の執筆者:前屋 毅 プロフィール
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。最新刊『学校が合わない子どもたち~それは本当に子ども自身や親の育て方の問題なのか』(青春新書)など著書多数。

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