「週2日以上の活動」が高野連加盟の条件
日本高校野球連盟では、多様な場で学ぶ生徒たちを尊重し、出場の門戸を開いています。通信制だけでなく、定時制や全日制の分校、中等教育学校、特別支援学校、高等専門学校、外国人学校などについて、それぞれの加盟要件を設けています。通信制の高校が加盟校になるには「同一の都道府県に在住する生徒を対象」「責任教師、監督の責任の下に活動していること」「シーズン中は週2回以上、指導者および部員が全員集まって活動できること」などの条件があります。
ただ、各地に拠点を置く広域通信制の高校が、全国に散らばる生徒を一時期だけ集めてチームを編成することは許されていません。このため、通信制であっても寮で団体生活を送りながら、野球に取り組むケースが多いようです。
他競技のトップアスリートにも人気
文部科学省が実施した2024年度の学校基本調査では、通信制高校は公立79校、私立224校の計303校にのぼり、初めて300校を超えました。生徒数も過去最多を更新する29万87人。通信制は、戦後間もない1948年に設けられた制度ですが、当初は働きながら高校卒業の単位を取得する勤労学生が大半でした。その後、不登校の増加により、社会のニーズも高まってきました。コロナ禍でオンライン学習の環境が整備され、抵抗感が少なくなったことも増加の一因でしょう。「ネットの高校」を掲げる角川ドワンゴ学園では、N高、S高、R高の通信制3校を運営し、全国の高校で最多となる3万2613人(2025年3月31日現在)の生徒が学んでいるそうです。
不登校のみならず、柔軟な学習プログラムの中で自分の能力を高めたいと考える生徒が増えています。スポーツ界では、ゴルフやテニス、フィギュアスケートなど世界を転戦するトップアスリートの中にも通信制高校に籍を置く選手が少なくありません。
学業との両立は欠かせない
より高いレベルで競技を極めたいと思うのは、どのスポーツでも同じでしょう。いずれ通信制高校が、甲子園の頂点を争う強豪校の一角を占める時代がやってくるかもしれません。ただ、誰もが一流のプロ野球選手になれるわけではありません。将来の選択肢が広がるような、進路指導も大切です。日本学生野球憲章は、第2章「学校教育の一環としての野球部活動」として「野球部の活動は、部員の教育を受ける権利を妨げてはならず、かつ部員の健康を害するものであってはならない」と定め、学業軽視、野球偏重の生活にならないよう、警鐘を鳴らしています。たとえ通信制でも、学業との両立は不可欠です。
今大会の直前には、未来富山の部員同士による暴力が明らかになり、高野連への報告を怠った野球部長が謹慎処分を受けました。高校生には未熟な部分もあります。濃密な団体生活を通じて、部活動を若者の人間形成に役立てなければなりません。学校や指導者は目先の勝利や知名度アップにとらわれず、教育的な視点で高校生を育ててほしいものです。 この記事の執筆者:滝口隆司
社会的、文化的視点からスポーツを捉えるスポーツジャーナリスト。毎日新聞では運動部の記者として4度の五輪取材を経験。論説委員としてスポーツ関連の社説執筆を担当し、2025年に独立。著書に『情報爆発時代のスポーツメディア―報道の歴史から解く未来像』『スポーツ報道論 新聞記者が問うメディアの視点』(ともに創文企画)。立教大学では兼任講師として「スポーツとメディア」の講義を担当している。



