なぜフランスでは店員の接客が「塩対応」なのか。日本の「お客さま優先文化」とは異なる対等な関係性

海外のレストランやスーパーでは、日本に比べて店員の接客が淡白なことがよくあります。フランス在住の筆者も多くの「塩対応」を経験しましたが、今回はどうしてそうなるのか、理由や背景を現地からお届けします!

フランスの店舗では、店員と客との間に「上下関係」がほとんどありません。街中のスーパーマーケットでは、目の前に客がいてもスタッフ同士で楽しそうに会話をしていたり、混雑していてもレジが1つしか開いていなかったり。飲食店でもスタッフの対応はフレンドリーというより「あっさり」で、人によっては冷たく感じることもあるかもしれません。

さらに印象的なのは、そんな「塩対応」が受け入れられているフランスの社会です。おもてなしが標準装備の日本から見ると、「そんな対応で本当に大丈夫なの!?」と驚きつつも、スタッフに過度なサービスを求めない文化に、少しうらやましさを感じることもあるでしょう。

店舗によって接客スタイルは異なりますが、今回は現地から「どうして彼らは塩対応になるのか」をリポートします!

店員も客も同じ人間

パリのカフェ
フランスの店舗では店員と客が対等(写真は筆者撮影、以下同)
フランスのスーパーやブティック、カフェでよく感じるのは、店員の対応がとてもフラットであるということ。へりくだるわけでもなく、時にはジョークを飛ばしながら、客と「対等な立場」でいることが大きな特徴です。日本では「お客さま優先」という考え方が基本ですが、フランスは客も店員も同じ人間であり、店舗のルールを優先するといった意識が根付いているように感じます。

フランスで暮らす筆者が最も驚いたエピソードといえば、「スーパーの店員が客に愚痴をこぼしていた」件でしょうか。筆者が以前にレジの列に並んでいた時のことです。前の客への対応を終えた店員が突然、「さっきの客、ボンジュールもメルシーも言わなかったわ」と、別の客に向かって不満をもらし始めたのです。

店員にはあいさつをするのが基本中の基本とされているフランス。それをとある客がしなかったということで、店員が別の客に愚痴をこぼしている姿に筆者は衝撃を受けました。そして、それを聞いた客が「失礼だよね」と共感していた姿にも、さらに驚いたのです。日本であれば、店員が客に愚痴をこぼすという光景はまず見られないでしょう。

スーパーでの経験はそれだけにとどまらず、商品をレジ前でポイと投げられたりと、ぶっきらぼうに対応された経験もありました。気になってフランス人の知人に尋ねると、「疲れてたんじゃない?」と、店員に一定の理解を示す声が。その瞬間、「店員も同じ人間だから仕方ないよね」という価値観が、フランス人に自然と根付いているのだと実感したのです。

客より「店のルール」を優先

パリのカフェ
パリのカフェではよくあること
物心ついた頃からそうした大人たちに囲まれて育ったフランス人は、他人に期待しない・求めないという思考習慣を身に付けていると感じます。「人に優しくしなくていい」という意味ではありませんが、これもまた、個人主義が成せる社会ならではの在り方なのかもしれません。

カフェやレストランでも同じ傾向が見られます。例えば、飲食店のスタッフは「呼ぶ」というより「待つ」。特にパリ中心部では慢性的な人出不足もあって、1人が何席ものテーブルを担当しているため、注文を取りに来るまでかなりの時間がかかることがあります。

それでは手の空いているほかのスタッフが手伝えばいいのでは? とも思いますが、実は他人の仕事を取ってはいけないという暗黙のルールが存在しています。つまり、ここでも店舗のルールが優先されるのです。柔軟な日本の接客スタイルとは大きく異なるところですね。閉店時間が19時であれば、駆け込み客もシャットアウトし平然と店をクローズしてしまいます。

それでも目くじらを立てないフランス人が多いのは、単純な「慣れ」のほか、同様のシステムをよく理解しているからでしょう。そのため、パリのカフェやレストランでは時間に余裕をもって食事をするのがベスト。急いでいる場合は、ノートルダム寺院やルーブル美術館といった人気観光スポット周辺の、混雑した店舗を避けるのもおすすめです。
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店員の塩対応を避けるには?
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