広告代理店最大手・電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が2015年末に自殺したのは、仕事量の著しい増加で残業時間が急増してうつ病を発症したためとして、東京労働局三田労働基準監督署は労災と認定した。

  

時事通信によると、高橋さんはインターネット広告を担当し、本採用となった同年10月以降、労使協定で定めた上限の70時間を大幅に超える残業が続いていたという。11月上旬にはうつ病を発症しており、発症前1カ月の残業時間は約105時間と認定された。また毎日新聞によると、高橋さんのSNSには「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」などと上司からパワハラ発言を繰り返されていた様子も書かれていたという。

  

今回の報道で残業時間ばかりに注目が集まり、インターネットでは自身の残業時間と比較するような声も散見された。しかし、「自分の方が長く働いている」といった発言も含めたパワハラ発言で、部下や同僚を知らぬ間に追い詰めている可能性は否定できない。そのような事態に陥らないためにはどうするべきか。また「パワハラ」とはそもそもどのようなものなのか、精神保健福祉士の大美賀直子氏はAll Aboutで以下のように解説している。

  

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パワハラ行為類型とは

大美賀氏によると、パワーハラスメント(パワハラ)については、2012年に厚生労働省の円卓会議によって行為類型が発表されているという。その類型によると、下記の6つの行為は、パワハラに当たるので注意が必要という。(※ただし、これだけをパワハラだと限定しているわけではない)

 

  1. 身体的な攻撃(殴ったり、蹴ったりという身体的暴力、暴行、傷害)
  2. 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
    <例>部下を指導する際に、「君は何をやらせてもダメだな……」などと、うっかり口をすべらせてしまう。これは指導を超えて相手の人格を非難していることになる
  3. 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外れ・無視)
  4. 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
  5. 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること、プライバシーの過剰な詮索)

加害者にとって分かりにくいのが、(2)から(6)までの行為。これらは、加害者はハラスメント(いやがらせ)という意識を持たずにやっていることが多いが、「パワーハラスメント」と判断されかねないので注意が必要だと大美賀氏は述べる。

 

加害者は「上司」だけではない

一般に「パワハラ」は、「上司から部下へ」の行為と限定的に捉えられがちだが、パワハラは「地位」の上下関係に限ったものではなく、もっと広い範囲で行われているという。たとえば、古参の社員が新入社員を仲間外れにする、有能な後輩社員が先輩社員を馬鹿にする、気の弱い上司の指示を部下が集団で無視する、といった「地位によらないパワハラ」も、すべてパワハラにあたる可能性があると大美賀氏は指摘する。

 

また、「業務の適正な範囲」についても、理解しておく必要があるという。たとえば、相手の誤った行動を指摘して、その行動を端的に注意するのは「適正な範囲」での指導と言えるが、一度言えば分かることを何度も繰り返して、長時間叱り続けたり、相手の人格を否定することをネチネチ言い続けたりするのは、明らかに「適正な範囲」の業務から逸脱していると大美賀氏は述べている。

 

パワハラ加害者になる前に覚えるべき3カ条

大美賀氏はパワハラ加害者にならないためのポイントを3つ挙げている。

 

1, 毒舌は百害あって一利なし

キツい一言を「また毒舌を言っている」と聞き流せる人もいれば、真に受けて自分を責めてしまう人もいる。

 

また、多くのパワハラ上司は、自分が発する言葉の重みをそれほど深刻に捉えておらず、あくまでも「指導の範囲」だと思い込んでいる場合もある。さらに、「俺は口が悪いのがキャラだから」「毒舌も愛情の裏返し」と開き直ることで、部下に耐えるよう暗黙のうちに要求しているケースもあるという。しかし、大美賀氏は「言葉によって受ける傷は、発言した側には想像できないほど深いもの」としている。

 

したがって、部下だけでなくどんな相手に対しても、「言葉一つで、相手と自分に一生の傷を負わせることもある」という認識を持って、他人と接するように心がけるべきだという。

 

「傷つける言葉を発すると快感を感じる」「自分が面と向かって同じようなことを言われるのは許せない」ということに心当たりがあれば、すぐにでも言葉遣いに注意すべきだとお大美賀氏は述べ、「キツい言い回しや、部下を馬鹿にする発言をしない」と決意するだけでも、本格的なパワハラへのエスカレートを防ぐ効果はあるとしている。

 

2, 相手の地位によって、態度が変わりすぎていないか

自分より立場が上の人には必要以上にへりくだるのに、下の人の前では傍若無人に振る舞うような場合、パワハラ上司になりやすい素地があるという。

 

<例>

  • 上司の前では大人しいのに、部下の前では怒鳴ったり一方的に話したりする
  • 上司が側を通ると深々と挨拶するのに、部下からの挨拶は無視する

 

立場によって態度がガラリと変わってしまうのは、「自分にとってメリットのある人以外は、粗雑に扱ってもいい」という思いがあることが原因である場合があり、この身勝手さが、パワハラ的言動を生む可能性があるという。他人同士がチームとなって働く以上、立場を超えて人間同士の信頼を高めあう努力をする必要があると大美賀氏は指摘する。

 

3, 自己満足のために部下を利用していないか

  • 私用のために部下を使いに行かせる
  • 自己満足のために部下を利用する
  • 気に入っている部下とは雰囲気よく話せるのに、そうでない部下は無視・仲間外れにする
  • 自分の意見を否定するような発言は認めないとプレッシャーをかける

 

上記のように、自己満足のために部下を利用し、その反応によって部下を不公平に扱っていれば、「パワハラ上司」と捉えられる可能性が高いと考えられるという。

 

部下に何かを求めるときには、少し間をおいて「自分は今、自己満足のために要求しようとしてないか?」と考えることを習慣にしてみてほしいと大美賀氏は述べている。

 

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