「電車」と「列車」の違いとは。同じホーム発着でも、行き先によって区別されている……!?

「電車」と「列車」の違いやその使い分けについて、「All About」鉄道ガイドの野田隆が解説する。

「電車」と「列車」。どちらも線路の上を走る乗り物だが、この2つの言葉に、実は明確な違いがあることをご存じだろうか? 今回は、「電車」と「列車」の違いや、その使い分けについて、「All About」鉄道ガイドの野田隆が解説する。
 

(今回の質問)
「電車」と「列車」は何が違う? 使い分けがあるって本当?

 

(回答)
JR東日本では、首都圏の「電車特定区間」を走る車両を「電車」、それ以外に直通するものを「列車」と呼んでいる。

電車は列車の一形態でしかない

そもそも、列車とは、線路を走る車両全てをいう。1両のみか、2両以上連結したものかは問わない。列車にはさまざまな形態があり、動力別、動力の集中・分散によって下記の表のようになる(あくまで原則)。
分類表
旅客列車の分類表。蒸気動車は、ほとんど普及しなかった
電車とは、さまざまな形態の列車のうちの1つに過ぎない。動力集中方式とは、動力のある機関車が、無動力の客車や貨車をけん引する列車のこと。動力分散方式とは、機関車不要で旅客用車両の何両かに動力機構を設け(主として床下)、走行する列車のことである。
汽車
鉄道の原点は、蒸気機関車(SL)のけん引する客車列車だ
国鉄(現・JR)は、蒸気機関車(SL)けん引の客車列車でスタートし、次第に動力近代化し電気やディーゼル車両に置き換わっていった。その中で、首都圏および京阪神エリアの一部路線では、例外的に本数の極めて多い電車のみが走っていた。これを「国電」と呼び、一般の列車と区別していた。

「国電」が走る線区を「国電区間」と呼び、運賃は列車区間より若干安く設定。運行ダイヤ(時刻)は列車は全ての停車駅で厳密に決まっていたが、国電は駅間隔が列車区間よりも短かったので、主要駅のみ決め、そのほかの駅は標準時刻といって、おおよその時刻で運行していた。

国電区間は電車特定区間となったものの、今なお残る区分け

電車
取手駅発、上野駅行き快速は「電車」
国鉄が民営化され、「国電」は消滅、「国電区間」は「電車特定区間」に代わった。JR東日本では「E電」なる言葉が発案されたもののまったく普及しなかった。

理由の1つとして、首都圏の場合、列車区間を走る列車も久留里線や八高線(高麗川駅~高崎駅)がディーゼルカーで運行される以外は、ごく一部の臨時列車をのぞいてほぼ電車となったため、区別の必要が薄れたからであろう。
列車
同じホームでも、土浦駅発、品川駅行きは「列車」
しかし、今でも駅の接近案内では「電車がまいります」「列車がまいります」と明確に区別している。

原則は、「電車特定区間」内のみを走るものを「電車」、列車区間に直通するものを「列車」としている(例外もあるからややこしい)。
常磐線の列車
土浦・水戸方面と都心を結ぶ常磐線は「列車」扱いだ
例えば、常磐線の場合、同じホームに発着する車両でも、品川駅・上野駅~取手駅を走る快速を「電車」(取手駅までが電車特定区間)、取手駅を越えて、土浦駅や水戸駅方面に向かうものは特急を含めて「列車」なのだ(現在、定期列車として使われている車両は全て電車にもかかわらず)。

中央線は高尾駅や青梅駅へ向かう特快・快速は「電車」、「あずさ」「かいじ」といった特急や豊田駅発松本駅行きといった普通列車は「列車」扱いだ(高尾駅までが電車特定区間、青梅線・五日市線は全線が電車特定区間)。なお、中央特快の大月行きは、高尾から先に直通するけれど、都内では「電車がまいります」と案内される。オレンジ帯のE233系は「電車」(かつての国電)で、高尾から先の列車区間に乗り入れているという扱いなのだ。列車番号も、東京~高尾、高尾~大月で異なっている。

埼京線は「電車」、同じ線路を走る湘南新宿ラインは「列車」となる(大宮駅までが電車特定区間、その先、高崎駅や宇都宮駅は列車区間)。

地方での電車と列車

近鉄
三重県で「電車」といえば、近鉄のこと。JRの列車は影が薄い
三重県には、JRと近鉄が並走している区間がある(桑名駅~四日市駅~津駅~松阪駅~伊勢市駅~鳥羽駅)。ある一定以上の年齢の人にとっては、「電車」に乗るといえば近鉄のことで、国鉄(現・JR)を利用することは「汽車(列車)」に乗ると言って区別していた。

国鉄と私鉄電車が並走していて、圧倒的に私鉄が便利な場合、汽車と電車という使い分けは、結構あちこちの地域で行われていたのではないかと思われる。
 
この記事の筆者:野田隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。
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