プライベートすらも「先生」でなければならなかった
――確かに、日本の先生は「いつでも先生でいなければいけない」という強迫観念のようなものがあるようにも見えます。宮下さん「そうですね。私自身、日本で小学校の先生をしていたころは、学校内はもちろん、外でも先生であることを求められているような気がしていました。私はいつでもどこでも『宮下先生』であって、『宮下彩夏』の部分がどんどんなくなっているような気がしていたんです。
しかしフィンランドでは、個を大切にするという当たり前のことが先生にも適用されています。パートナーや家族と普通に街を歩くし、時間を作って旅行にも行きます。
日本の先生方の中には、地域の目を気にされて街を歩くのも気を遣ったり、学校行事のためにプライベートを犠牲にしたりしている人も多いのではないでしょうか。先生が『一人の人間』であるということも、日本でももっと尊重されていいのではないかと思いますね」
日本の先生には「自分たちは教育のプロ」と自信をもってほしい!
――働き方が依然として問題になってはいますが、日本の学校の教育は世界から称賛されていることも事実です。宮下さん「もちろんです。日本の教育のすばらしさを強く感じたのがまさに今回の教育旅行ですね。
勤務するフィンランドの高校の生徒を引率したのですが、『なかなか集合時間を守ることが難しい生徒もいる』ということに日本との大きな違いを感じました。
もちろん、慣れない日本での生活に戸惑った部分も多いと思うし、個人差はあります。しかし、集団で動くにはどんな配慮が必要で、自分の行動が周りにどんな影響を及ぼすのかということを想像するのは、日本人のほうが上手なのだろうなと思います」
――今後の日本の教育がどのようになってほしいか、宮下さんの考えを教えてください。
宮下さん「両極端の日本とフィンランドの教育を見てきたからこそ、両方のよいところをとりいれた形を目指せないのかな、と感じます。そして、日本の先生たちにはもっと『自分たちは教育のプロなんだ』と自信や誇りをもってもらいたいなと思います。
日本を離れたら『日本の嫌なところばかりが見えるんじゃないか』と思っていたのですが、意外とそんなことはなく、むしろ素晴らしいところや世界に誇れるところがたくさんあると気付きました。
だからこそ、『なぜ自分は教師を目指したのか』というところに立ち返り、自分の教育者としてのスタンスやマインドを大事にしてほしいし、私も忙しさに振り回されることはあっても、軸をぶらさずにいたいと思っています。きっと自身の思いに真摯に向き合うことが、先生たちにとってのウェルビーイングにもつながるのではないでしょうか」
宮下彩夏
東京学芸大学人間社会科学課程カウンセリング専攻を卒業後、横浜市公立小学校教諭として勤務。退職後は一般企業に勤務したりボランティア活動をしたりするなど多岐にわたって活躍。現在は、教育視察サポート・企画・運営や、ヘルシンキ日本語補習校の講師を務めるほか、「教育×フィンランド×日本」をテーマに幅広く活躍中。